(278)「現代史の青春」から80年ー川成洋・渡辺雅哉・久保隆『スペイン内戦(1936〜39)と現在』を読む

 スペインに私が旅をしたのは2001年。衆議院国土交通委員会の委員長として、所属する委員とともにフランスを経て、バルセロナ、マドリードなどを駆け足で回った。目的は両国の高速鉄道事情調査だった。後にも先にもこの国に足を運んだのはそれだけだが、中世そのものの雰囲気を今に湛えた場所などとても印象的だった。実は新聞記者時代に私が関わったスペイン通が二人いて、その人たちの書くものを通じて、この国のことを知った。一人は作家の逢坂剛さん、もう一人は法政大学教授の川成洋さんである。西欧各国の余暇観をスペシャリストに書いてもらうということで、逢坂さんにご登場願った。一時、逢坂さんの小説を片っ端から読み漁ったものだ。一方、川成さんについては書評を書いてもらってからのお付き合いと記憶する。この人は英文学専攻でありながら、スペインに嵌り込んだというユニークな学者である■実は先日、『英国スパイ物語』という同先生の最新著作を本屋で見て、急に会いたくなった。上京の合間を縫って、溜池山王でお会いした。その際に、贈呈していただいたのが『スペイン内戦(1936〜39)と現在』という同氏を中心にしたお三方による最新の編著作である。なんと、800頁にも及ぶ太い本で、お値段も6千円近い。とても普通では買って読もうという気はしない。しかし、頂いたからには読まねばと思って、少しづつ読み進めている。その時に交わした会話は多岐に及ぶが、英文学からスペインに学問の領域を広げる自由を与えてくれた法政大学のおおらかさへの感謝のお気持ちや、現在の文系の学生の就職における苦悩(マッチングしないということ)に関するお話が印象に残っている■この本を前にして、今なぜスペイン内戦か、という問いかけが当然ながら浮かぶ。のちに送っていただいた「図書新聞」(3363号 8月11日付け)の川成さんら著者三人による鼎談を読み、それなりに背景がよく分かった。スペイン内戦については、『誰がために鐘はなる』とか『カタロニア讃歌』など映画や文学で数多く取り上げられている作品を見ても分かるように、当時の世界の文化・芸術に携わる人々の心底を揺さぶる一大出来事だった。それはかの地が持つ独特の文化的基盤、芸術的空気のなせる業ではないか、と思われる。ヘミングウエイ、ジョージ・オーウェル、ロバート・キャパ、ピカソなど数多の芸術家たちが「国際旅団」なるものに加わって参戦したり、それぞれ独自の関わりを持とうとしたことでもわかる。川成さんはこの本について「スペイン内戦を論じた概説書というわけではなく、三分の一ぐらいは文学や音楽、演劇や絵画、哲学、映画などの研究者が関わっています」し、「海外の研究者たちが積極的に寄稿してくれたのも、この手のものとしては大変珍しい」という。「国際旅団」に命懸けで馳せ参じた義勇兵の数は55カ国から約4万人。共和国側の医療・教育・プロパガンダなどの後方支援についた非戦闘員が約2万人。この数字をあげたうえで、川成さんは「スペイン内戦は『現代史の青春』だったのかもしれない」と印象的な記述をしている■思えば、スペイン内戦とは、コミュニズムかファシズムか、どちらを選ぶかとの紛れもない「地獄の選択」であった。現代史は、その後、第二次世界大戦へと突入。ファシズムは大筋のところ後衛に退くに至ったものの、コミュニズムは栄華を誇る展開となった。だが、それも21世紀を前に脆くも崩れ去る。そして世界は、米ソ冷戦から、米一極の時代を経て、今や中国の台頭と、欧米民主主義国家群の退潮という新局面を迎えている■日本におけるスペイン研究にあって、「孤軍奮闘といえば大袈裟かもしれませんが、川成さんは継続して論じられています」(久保隆)との指摘は見逃せない。その人が深い思いを込めて、80年の時を刻んだ「内戦」から「内戦後」への歴史に立ち向かったのがこの本である。スペインに興味を持つ多くの人々にとって記念碑的役割を持つに違いない。ただ、私のような門外漢にとっては、いささか重すぎる。戦後も長く生きて、影響を及ぼし続けたフランコの存在など、一般に不明な部分が気になる。出来れば、「内戦後」の80年間のスペインを整理した補足集を付けて欲しかった。(2018-10-21)

★他生のご縁 公明新聞文芸欄の常連ライター

 川成さんはしばしば公明新聞文芸欄に書評を書かれています。その昔に私が先鞭をつけたのですが、もはやそれを知る人とていないのが現実です。私の『77年の興亡』について、川成さんに書評を書いて欲しいと思って来ましたが、今のところ実現はしていません。そのうちどこかでと期待しています。

 「ウクライナ戦争」に心傷める日々を過ごす中で、改めて「スペイン」に思いを馳せざるをえません。スペイン風邪の猛威とコロナ禍とともに、この戦争には不気味な予感が伴います。80年の歳月を超えて恐怖の類似性に心穏やかでない思いを抱きつつ、川成さんのご意見聞きたいとの思いが募ってきています。

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