早すぎたがゆえの未熟さー中公新書編集部編 清水唯一朗『日本史の論点』第4章近代編を読む

第4章「近代」での論点は、まず「明治維新は革命だったか」と問いかけ、「復古か革命か革新か」との三択で迫った上、結論は「江戸の蓄積を巧みに生かした革新(Innovation)と捉える」。妥当な線だと思われる。かつて市川雄一元公明党書記長としばしば明治維新論を語り合った。 彼は、世界の革命史の中でも出色の平和無血革命であるとの捉え方であった。フランスやロシアそしてアメリカとの対比をした上で、それらと比べれば、血の流れ方が際立って少ないというものであったと記憶する。しかし、私は正直しっくりこなかった。尤もそれは無血という表現にであって、革命ということに異論は感じていなかった。だが、清水唯一朗氏は江戸期から明治期へ、政治の「担い手の連続性は高く、東洋的な意味での革命とはいいがたい」と指摘する。確かに江戸末期の幕臣たちの有為な能力をつぶさに見るとき、その思いが強く漂う。しかも徳川将軍家も支配的地位を降りたとはいえ、後衛に退いただけで、明治新政府は新旧取り混ぜての有能な人材の結集だったともいえよう。つまり画期的な革新が明治維新だったというのが収まりどころかもしれない■第2の論点は、なぜ官僚主導の近代国家が生まれたのか、との問題提起である。明治日本は、国内の有為な人材に先進的な教育を行い、その人材を政府に集めて国家建設に尽力させ、結果として官僚中心の行政国家をアジアで最も早くに達成した。だが、それは同時に初期の国造りにあって、「広く国民全体に呼び掛けていく構造を持たなかった」ゆえに、「グラスルーツの民主化、近代化が脆弱なまま放置された」とする。〝早かろう、未熟だろう〟の近代国家日本はやがてその馬脚を表し、一国滅亡の運命を辿ったということかもしれない。第3の論点「大正デモクラシーとは何だったのか」との設問は、第2の論点との関連で見ると分かりやすい。早すぎる官僚主導の国造りのなかで、初期の自由民権運動から第二期の民主主義運動へと、ある意味での下からの抵抗力の発露だといえよう。大正期に勃興したこの動きを大正デモクラシーと呼ぶのだが、これは「藩閥政治を批判する民本主義から、平等の主張とともにモダニズムとナショナリズムを喚起する改造主義へと展開」した。明治初年からほぼ40年後の日清、日露の戦争を経て、やがてアジア全域を巻き込む世界大戦の主導役に向かう日本。その流れの中で短い期間だが、このデモクラシー期があったことは、現代日本人として誇りに思う■論点4は「戦争は何をもたらしたか」の問いかけである。著者は、ほぼ10年に一度起きた大規模な戦争を一つづつ吟味する。まず西南戦争は、軍事的必要からの生活全般への技術普及をもたらす一方、藩閥政治から立憲政治へとの政治変動をもたらした。次に日清戦争。これは初めての大掛かりな対外戦争だったがゆえに、国家を意識させ、広く国民意識をもたらした。「地理的には存在しながらある種のフィクションであった国家がリアルに捉えられた」のである。さらにこの本では、台湾での戦闘(1895年)を加える。あまり人口に膾炙してるとはいえない「日台戦争」だが、児玉源太郎や後藤新平の活躍と相まって、彼の地のインフラ整備と産業振興を実現、日本に多大の利益をもたらした。結果、戦争への肯定的理解を生み出した。次に、日露戦争。これを第ゼロ次世界大戦と捉え、世界秩序に大きな変化をもたらしたとする。多大な犠牲をともなったがゆえに得た帝国の利益を失ってはならないとの感情論と、対称的に反戦論をも生み出した。更に、第一次世界大戦。これは日本に火事場泥棒的利権と中国への野心という点での列強からの不信をもたらした。最後にアジア・太平洋戦争。戦時下の統制経済の構造が、戦後の高度経済成長を支える制度的背景となったように、戦争が戦後体制をもたらす結果となった■最後の第5の論点での問いは「大日本帝国とは何であったか」である。安全保障を拡大原理とする大日本帝国は、権益の拡大という経済目的を結びつけ、無限の膨張を引き起こしていった。この過程で、統合の中心となった天皇は、「フィクションのうえでの主権者とされた」にもかかわらず、自らも「統御できない国家が生まれていた」と結論づける。要するに、軍部独裁という名の不可思議な権力構造のもたらした悲劇の国家だったということか。明治維新から150年の節目を迎えた今年の終盤にあたって、近代日本とは何だったかをおさえる上で、極めて有用な章ある、というのが読み終えての私の実感である。使われている資料も新しいものが多く、最新の歴史学会の流れを押さえた上での著者の斬新な切り口もうかがえる。この本を多くの人に推奨したい。(2018-12-9)

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