病気や食生活を考えさせられる宮本輝の小説

宮本輝さんの小説は、病気に関する注意書きという観点からも読める。以前にご自宅にお邪魔した際に、ご本人自身が糖尿病を完全にコントロールできたことを話されていたことを思い出す。そのためもあって、とりわけこの病の記述には熱が入っているように思われる。このほど彼の自伝小説『流転の海』第七部『満月の道』を読み終えたが、主人公の熊吾が随所で糖尿病を意識した食生活をしているくだりが印象に残った▼主治医の小谷医師が「医学的な根拠によって明確に証明されたわけではないのですが」と断ったうえで、「ビールと日本酒をやめて、焼酎かウィスキーに変えた糖尿病患者の七割は、確実に症状が改善されます」と語る。「まったく改善されなかった患者の食生活をこまかく調べますと、酒を減らしたぶん、どうしても口寂しくなって、甘いものを以前よりもたくさん食べる」し、「晩酌の量が減るので、これまで茶碗に一膳だったご飯が二膳、三膳に増えます。症状がかいぜんされなかった三割の患者が、すべてそうなのですから、私は糖尿病患者にビールと日本酒は禁じることにしましたし、菓子類の摂取も厳禁と決めました」とも▼また、彼の『にぎやかな天地』という小説では、発酵食品の話が集中的に取り上げられている。高校時代の私の友人で飯村六十四という医師がいるが、この本を彼から読むように勧められた。この医師は、糖尿病内科が専門でアンチエイジングやスポーツドクターの研究にも取り組んでいるが、宮本作品の愛読者でもあると知って驚いた。未読の方や食生活の改善に関心のある方にはお勧めしたい▼『満月の道』は,雑誌「新潮」の2012年1月号から2013年12月号までのものが単行本に取り込まれているが、ほぼ最後の部分に、『赤毛のアン』が登場する。NHKの朝ドラに「アンと花子」が取り上げられたことを知ったうえで、輝さんはおそらくここの部分を書いたのだろう。でなければ、驚異的な偶然にたまげる。高校二年生の伸仁(輝さんのこと)が,この本をあっちこっちに線を引き、ぼろぼろになるまで何度も読んだと思われるくだりがとりわけ興味深い。「アンにものごとを冷静に受けとれということは、性格を変えろということになるだろう」という一行に線を引いていることを父親の熊吾が発見して、「この文章の意味を解せるおとなは少ないでしょうな」と言わせているのだ。「人の宿命と性格ーそれぞれの転換は可能か」と若き日にしばしば考えたテーマを思い起こさせられ、ほのぼのとした気分になった。(2014・9・6)

Leave a Comment

Filed under Uncategorized

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です