(66)日本史の謎ときから国土保全政策を探る 竹村公太郎

 格言に「仏の顔も三度まで」とか、「居候、三杯目にはそっとだし」などとある。これは何事も、二回目まではいいが、三回目となると違ってくるということを意味していよう。ただ、本の世界では通常三部作などと言われて三点セットに意味のあることが多い。竹村公太郎さんも『日本史の謎は「地形」で解ける』シリーズの三作目として「環境・民族編」を出し10年ほどが経つが、このほど改めて読み直した。前作「文明・文化編」や前々作に劣らず面白い。この人の着想ほどユニークなものはなく、様々な座談で活用すると受けること間違いない。この本のなかでも、クルマ文明をなぜ日本は進化させられなかったのかという問題提起は斬新である。つまり牛車や馬車が発達せずに衰退したのは、日本人が「馬や牛を去勢し、徹底してコントロールできなかった。だから車などとしては使いにくかった」ことに原因がある(動物に優しかったということ)というのだ。やがて江戸時代には大八車や籠担ぎが隆盛を誇り、それは明治初めの人力車へと続く。つまり人から動物へではなく、むしろ逆行していった。この辺りを牛が暴れる絵巻の秘密を通じて明らかにしており、魅了される▼また、選挙のたびに掲げられる各党の政策の大きな焦点は安全安心の街づくりであり、治山治水にある。この観点からは元河川局長にして文明の謎に通暁した竹村さんの主張は大いに参考になる。例えば、第7章「なぜ勝海舟は治水と堤防で明治新政府に怒ったか」は極めて示唆に富む。「富国強兵のための税収欲しさに、治水の原則とは逆の、洪水の水位を上げる方向へ突き進んだ」という明治政府。他山の石にせねばならないと思われる▼一方、『土地の文明』では、「忠臣蔵」が徳川幕府による復讐劇だったとしている点が興味を惹く。徳川家と吉良家は矢作川を巡って数々の確執があったのだが、家康が天下をとってからは、吉良家に世話にならざるを得ない事情が起こった。「高家」として大事な扱いを余儀なくされたのだ。つまり、徳川家にとって、吉良家はトラブルの元凶でありながらも粗末にできない、という特殊な関係にあった。あわよくば吉良を潰したいとの思いを持ちながら、果たせないという状況が長く続いていた。それを果たすチャンスが、浅野内匠頭の失敗がきっかけとなって遂に巡ってきたとの捉え方である。他に、江戸城の正門と見られる半蔵門そばの、麹町に赤穂浪士がまとまって潜伏していた理由や、吉良邸が討ち入りされやすい場所に移転させられたことなど知られざる事実を次々と暴いていく▼このほか、日本中の多くの土地が持つ謎を解き明かしてくれる。頼朝が鎌倉という狭い土地に幕府を開いた真のわけとか、日本における最後の狩猟民族は、中国地方の毛利家だったとか、知的刺激を幾重にも掻き立ててくれる話が満載されている。尤も、細かい点では、納得し難いことにも出くわす。例えば、大阪の道が狭いために皮膚感覚の街として研ぎ澄まされたという一方、名古屋は街路幅が大きいという対極にある街だとの指摘など兵庫県人から見ると、対極というよりも同種の変な街に見える。さらに、全国の中枢都市は、皆一級河川と呼ばれる大きな河川流域の恩恵で発展した一方、大きな河川がないのに発展したのが福岡市のみという。福岡は確かにそうだが、神戸市も大きい川はないではないか、と首をかしげてしまう。いずれも直ちに納得できないがゆえに、あれこれと思いを巡らせることになり、果てしなく考えが広がっていくのかもしれない。

●他生のご縁 同年生まれの文明評論家は元河川局長

竹村さんとの出会いは2001年に遡ります。衆議院国土交通委員長に就任した私は、国交省の各部門の局長の皆さんから、所轄分野のレクチャーを受けました。その時の河川局長が竹村さんでした。同じ時に道路局長だったのが、大石久和さんでしたが、彼らは共に、昭和20年生まれの同い年。大いに親近感を感じたものです。

ちょうどその頃、竹村さんは『建設オピニオン』という業界誌に島陶也という筆名で次々と面白いエッセイを公表していました。編集長との雑談の中から、国土にまつわる謎解きを提起していくという手法で、後に本になる原稿のベースを作り出していたのです。省内で密かなブームを引き起こしていたようですから只者ではないお役人だったのです。

 河川局長というポジションにつく人は、昔からユニークな人が多かったという「伝説」があります。私の大先輩市川雄一さんが建設委員長をしていた時の局長は、年賀状にでっかい文字で5字くらいだけ書く〝強者〟だと聞いたことがあります。竹村さんはそういう点ではなく、ひたすら日本文明と国土との関係などの謎解きに取り組んでいたものと見られます。

 国交省を辞めてから一時はある議員の秘書になったと聞きました。退官2年後に博士号を取得されていますから、食い扶持を稼ぎながらひたすら勉強されていたに違いありません。

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