中東での事態をよそ事と見る危険(86)

池上彰と佐藤優ー世事万般の動きを解説させて他の追従を許さない二人の男。この二人が対談したとあらば読まぬわけにはいかぬと思いながら、いささか出遅れた感は否めない。昨年11月発刊の『新・戦争論』をこのほどようやく読み終えた。ここでは従来とは趣向を変えて、二人の発言のうち、私が注目したものを拾い出して、それへの感想を記したい▼第一章(地球は危険)欧米で大ベストセラーのダン・ブラウンの『インフェルノ』は人口は感染症によって調整するしかないということを是認している。感染症問題に欧米が積極的でないのは、人口増への白人の恐怖。「経済力を持たないと国家はなめられる」→欧米優位できたこれまでの世界史を逆転させたくないとの思いは陰に陽に見え隠れする。戦後70年の日本は沈む欧米に追従するか、浮揚するアジアに身を寄せるか、真価が問われよう▼第二章(民族と宗教)➀「中国はプレモダンの国が、近代的な民族形成を迂回してポストモダンに辿り着けるのか、という巨大な実験をやっている」→中国はすでにプレ段階からモダンに突入している。実験を成功させ、ポストモダンに辿りつかせねば、隣国日本としてはナショナリズムのぶつかり合いを免れない。➁イスラエルのネタニヤフ首相の官房長の発言から。「国際情勢の変化を見るときは、金持ちの動きを見るんだ」「冷戦後、20年も経って,政府が情報とマネーを統制できなくなっており、国家が空洞化している」「戦利品を獲れるという発想を持つ国は、本気で戦争をやろうとする。すると、短期的には、戦争をやる覚悟をもっている国のほうが、実力以上の分配を得る→極東の孤島・日本からはなかなか伺え知れない中東の孤国イスラエルらしい見方だ▼第三章(欧州の闇)➀「1980年代末、モスクワで雑誌を見て驚いたのは、肉屋で人間の肉を吊るして売っている写真が出ていた。食糧危機で人肉を販売せざるを得なくなったのはウクライナだけ」「ドイツのミュンヘンでビールと豚肉を食べていると、その店で働いているウエイトレスはチェコ人かハンガリー人。その豚肉はハンガリーから来る。そのハンガリーの豚小屋で働いているのがウクライナ人。そのエサはウクライナから来ている」「ウクライナは汚い労働、低賃金労働の供給源として必要」→日本での風景もこれと大差ない。東京で飲んでいると、中国人やミャンマー人などアジアの人びとがウエイトレスに多い。そこで出てくる食べ物も……と考えると似たり寄ったりではある。アジアの闇とどちらがより暗いか。➁「ヨーロッパというのは、誤解を招く表現かもしれないが、基本的に戦争が好きな国々です。(中略)再びヨーロッパが火薬庫になる可能性もゼロではありません。ユーゴスラビアにしてもウクライナにしても」→問題はその火薬庫の爆発が地域限定に留まるのか、世界に飛び火するのかということであろう。ここでもアジアの孤島にすむエゴが鎌首をもたげてくる▼第四章(イスラム国と中東)➀「現代の中東は、近代主義者からすれば、中世世界のように見えるかもしれません。イエメンなどは完全に中世で、三十年戦争当時のドイツみたいに、戦国時代がそのまま続いています」→そう、中世とポストモダンの現代がぶつかろうとしているのがテロ戦争の時代だ。先日映画『アメリカンスナイパー』を観て、暗くて重いアメリカの闇を実感した。アメリカよヴェトナム戦争で懲りたのではなかったのか、と。➁「ヨルダンは国王暗殺があったら崩壊します。後継者がきちんと育っていないから。(中略)もし、今テロで国王が殺されたらこの国は本当にカオスになります。実は『イスラム国が狙っているのはそれだ』」→中東で起こっていることをどうしても身近に感じられない日本人。イスラム国が投げかけている問題は第三次世界大戦に繋がりかねないと思われるのだが……▼このように対談の中で私が取り上げたものを挙げてみて気づくのはすべて佐藤優氏の発言ばかり。池上氏は聞き役に回っているという印象が強い。しかも佐藤氏のここでの発言はいささか過激なものが多いと思われるのだが、これは読むほうがのんびりしているからだろうか。以下続く(2015・3・13)

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