【141】友好と信頼を築く日中融和の試みー浅野勝人『北京大学講義録』『融氷の旅』

元NHKの解説委員にして元内閣官房副長官、元外務副大臣などを歴任した浅野勝人氏。国会議員を勇退されて5年半が経つ。昨年末に前議員の会で久方ぶりにお会いした。一貫して日本と中国との融和に取り組まれてきたことで知られる。かねて尊敬していたジャーナリスト出身の大先輩との再会は私にとって大いなる知的刺激をもたらしてくれた。この人は今「安保政策研究会」という一般社団法人を主宰される一方で、執筆活動にも余念がない。現役時代さながらの意欲と行動ぶりには驚くばかりである。ほどなくして二冊の本が送られてきた▼『北京大学講義録 日中反目の連鎖を断とう』『日中秘話 融氷の旅』だ。私は、池田大作創価学会インターナショナル(SGI)会長(現在)の学生部総会での講演(1968年)を聴いていらい中国問題に開眼した。強い関心を持って研鑽を重ねてきたが、この2冊の本には正直言って全身を激しく揺さぶられた気がする。浅はかな時流におもねらず、ひたすら日中両国の相互理解に身を捧げてこられた姿が改めて浮かび上がってくる。前者は、北京大学の学生たちを前にして「外交・安保」「経済政策」「教育論」「公害論」などを真摯に講義された記録だ。貴重な「日中関係論集」として参考になり、利用価値は高い。後者は、面白い秘話がちりばめられた「浅野勝人回顧録」である。これまたもう一つの「日中裏面史」として評価出来る▼いったいいつから「嫌中論」や「反日論」が両国内に台頭してきたのだろう。「江沢民の13年」という言い回しに代表される反日教育のせいばかりには出来ない。どっちもどっちの広範囲な認識ギャップも災いしていよう。私自身、「自公」の名だたる先輩三人がかつて中国で日本の政治批判をされたことの非を予算委員会の場で、あげつらったことがある。内心忸怩たる思いだったことが遠い日の一葉の写真のように今によみがえる。「共産主義中国」を、「お行儀の悪い中国人」を知ったかぶりに批判するのは簡単だ。しかし、悠久の歴史の流れの中で毅然と聳え立つ中国の良き伝統を今に受け継ぐ善なる人々も同じ数だけいることを忘れてはならない▼日中間に真の友好をつちかってきているのは「池田思想」を学び実践する創価学会だけ、との思いこみが私にはあった。中国人学生が寄せた浅野氏の講演に対する感想レポートが掲載されているが、それを読むと厳しい寒さの冬の朝にぱっと窓を開けた時のように、清々しさに圧倒される。人の心を掴むことの大事さを思い知らされて余りある。なお、この2冊にはさりげなくだが随所に浅野さんが勧める本の紹介がなされている。山本七平『帝王学「貞観政要」の読み方』やユン・チアン『近代中国の創始者 西太后秘録』上下等々。これらを拾いあげて読むこともまたとっておきの楽しみだ。政治家の書いた本はとかく色眼鏡で見られがちだが、この本はまったく違う。まずは身の回りの学生や青年たちに薦めたい。(2016・2・3)

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