(164)「話す力」を重視して「聞くこと」を疎かにするとー阿川佐和子『聞く力』

政治家は様々な場面で時々の政策課題について、自身がどういう考えを持つかが問われる。大学の後輩で時に親しく言葉を交わした石破茂前地方創生相がかつて「朝起きて新聞を読んだ後、その日自分が何についてどう発言するかを頭の中で整理するのが自分の日課だ」と言っていたことを思い起こす。政治家たるもの「喋ってこそなんぼのもの」で、黙ってることは悪に等しいということが現役の頃に強迫観念のようになっていたものだ▼しかし、これも一対一の相対関係の中に持ち込むと、時に喋り過ぎは人間関係を損ないがちだ。人はどうしても得意な分野や熟知していると思い込んでいることについては喋りすぎてしまう。相手の話を聞かずに、自分の意見を語ってしまうだけで、自己満足に陥りがちだ。私の場合それに加えて、対話をしている際に、相手の話に口を挟み、しかもその話の筋から逸れて持論を展開しがちになることが多い。数年前のこと、某市の副市長をした大学の先輩が私のために本を買ってきてくれたのに、私は「それならもう読んでます。その人の作品にはもっと面白いのがありますよ」と言いかけた。その先輩は「そうか。なら、もう俺は帰る。お前とはもう会わない」と中座されてしまった。同席していたもう一人の先輩があれこれとりなしてくれようとしたが、最早相手は聞く耳を持たなかった。大失敗だ。ここまではいかずとも、これに類する話は、私の場合恥ずかしながら少々あるのだから始末が悪い▼中学時代から50年余の長きにわたる親友・志村勝之君は、今は大阪で臨床心理士を営むが、こういう私の悪い癖を知り抜いていて、様々な機会にやんわりとアドバイスをしてくれ続けている。先に、二人で出した対談電子本『この世は全て心理戦』にあっても随所で「聞くこと」の大事さを彼は語ったもので、かくいう私も当然のことながらそれを認めている。その彼が先日の語らいの中で、キャスターの阿川佐和子のTBS系TV番組『サワコの朝』を観るように勧めてくれた。彼女の「聞く力」は大変なもので、参考になると思うよ、と▼チャーミングで限りなく爽やかなアガワさんにはかねて私は好意を抱いてきた。だが、私は彼女の書いた累計200万部に迫る国民的ベストセラー『聞く力』は、読む気がなぜかしなかった。どうせ中身は読まずとも、という感じだったのだと思われる。そのくせ、彼女の兄である阿川尚之慶大名誉教授にかつてある会合の場で会った際に、「ぜひ妹さんに会わせて欲しい」とダメ元で頼み込んだことがある(残念ながら未だに実現していない)。偶々観たその朝の番組ではイラストレーターの水森亜土さんが相手だった、確かに見事なやりとりだった。ということで、ようやく重い腰を上げて、そむけていた耳を傾けて、阿川佐和子『聞く力』のページをめくるにいたったのである。(この項続く=20016・8・13)

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