領域保全に限定した自衛隊ー憲法9条加憲についての私案( 修正版)

私は衆議院議員に在職当時(1993~2013)のほぼ大半を、憲法調査会と憲法審査会に身を置いていた。中山太郎(元外相)さんが会長を務められている頃には、第一回目の海外における憲法事情の調査(2000年)に、共に欧州へ赴いたものだ。与野党呉越同舟の旅で、右は保岡興治、中川昭一(故人)、左は仙谷由人、辻元清美氏らといったうるさい面子との和気藹々の旅であった。忘れがたいことは、イタリアはローマの大使館において同地在住の作家・塩野七生さんに会ったことである。そのときに彼女は「日本の政治家の皆さんがわざわざイタリアまで来られて、日本人の私に憲法についての考え方を聞きたいと仰るのは名誉なことではありますが、しかし……」と語尾を濁された。懇談の中では、憲法改正に向けては、各議院の総議員の3分の2以上の賛成を得ないと発議できないことを定めた憲法96条の規定を変えることが最優先されるべきだと持論を強調された。政治の世界のまどろっこさを気にされながら、いつものこの人らしい直言居士ぶりに似合わない抑え気味の口調が強く印象に残っている。あれから20年近い歳月が流れた。ここへきて、日本国憲法も改定に向けて、ようやく一歩を進めるかのように見えることは喜ばしい■このたび一般社団法人「安保政策研究会」の構成メンバーによる議論を経て、憲法9条についてどう考えるかの意見表明をまとめる機会が得られた。まず、冒頭に私の考える結論を簡潔に記したうえで、その周辺を補足してみたい。ただし、当然のことながらこれは私個人の考えで、現時点での公明党のスタンスとは異なる。公明党は「憲法9条改正」をめぐっては、慎重な姿勢を崩していない。
 
 憲法9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際平和を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。
 ただし、我が国の存立を危うくする明白な事態に対応するため、領域保全に限定した能力を持つ自衛隊を置く。

 今回の憲法改定論議は、憲法9条1項、2項をそのままにして、自衛隊の存在を明文化しようとする安倍首相の提案から始まった。これは改憲、護憲に対して、第三の加憲の立場に立つ公明党を意識したものであることは自明のものであり、従来から加憲の対象に9条も例外ではないとしてきた身として、我が意を得たりという他なかった。公明党内の主張としては少数派であったが、かつての同僚でも有力なメンバーに同様の意見があったものと記憶する。公明党が憲法論議の中で、各党の同意が得られやすいものから加憲していくとの態度をとってきたことは周知の事実であり、環境権などをその筆頭に挙げてきた。議論の当初において加憲は殆ど顧みられなかったが、ここへきて「9条加憲論」がにわかに脚光を浴びるに至ったことは感慨深い■陸海空の戦力を保持しないと述べた後に、自衛隊を置く規定を設けることについては、もちろん異論が少なくない。字面を追うことから矛盾ありとする議論である。ただ、2項の規定を削除せずに、自衛隊を置く規定を新たに加えることは、従来の政府解釈からすれば矛盾はしない。政府は、一切の「戦力」の保持を禁止するとしながら、「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするため必要な自衛の措置をとることを(9条が)禁じているとはとうてい解されない」としたうえで、「(自衛の措置は)国民のこれらの権利を守るためやむを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべき」との解釈を示してきている。これは政府の憲法9条解釈の基本的論理であり、1972年(昭和47年)の政府見解である。むしろ、2項を削除したあとに、自衛隊を置く規定を明記することは、明らかに自衛の能力を超えたものとしての自衛隊保持を意味することになり、これまでと違って際限なき軍備拡大への道を開くことを意味しかねない■もちろん、この「9条加憲論」が本来の意味からの合理性に難点を抱え、従来から指摘されてきている現実との乖離を一掃するものでないことは百も承知である。だが、自衛隊という現実に今存在するものを否定しかねないという最も大きな非合理からは逸脱できる。今回の議論はまず、その一歩を踏み出すことで収束させるべきである。つまり、戦後70有余年、延々と続けられてきた憲法論議の顛末を蒸し返すことはもはや御免蒙りたい。今ある自衛隊を認め、領土、領海、領空を守る専守防衛に限定した領域保全能力を発揮することを銘記することだ。なお、先に規定された安全保障法制でも、公明党は専守防衛を越えた、専ら他国を防衛するための武力行使、いわゆるフルサイズの集団的自衛権の行使は許されないとの立場を取った。これは、他国の武力攻撃について、日本が直接に武力攻撃を受けたと同様の被害が及ぶことが明らかな場合を存立危機事態と定め、自衛の措置を認めたものであり、いわゆる集団的自衛権の行使ではない。あくまで、専守防衛内の領域保全のための自衛力を行使するものだとの解釈に立つ。
                                          (2018・3・28)

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