「変な外人」の素晴らし過ぎる洞察力ー第19回アジア太平洋淡路会議から

毎夏に淡路島ウエスティンホテルで行われるアジア太平洋フォーラム淡路会議が今年は8月3日〜4日に開かれました。これで19回目。引退後のこの5年、私は毎年参加しています。尤も第一目だけで、二日目の分科会は出たことがありませんので、ほんのお付き合いかもしれません。ですが、それでも味わい深い中身で、いつも満足しています。まして今年は、テーマが「都市は競争するー創造性と多様性」で、メインの記念講演が株式会社小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏による「都市の魅力を高めるために日本で取り組むべきこと」とあれば、おのずと興趣は高まったというものです。といいますのも、この人は国宝・重要文化財の補修を本職として手がける一方、『新観光立国論』で山本七平賞をとったり、財界「経営者賞」をはじめ、日本ファッション協会「日本文化貢献賞」や総務省の「ふるさとづくり大賞個人賞」などを次々に受賞。しかも政府へのさまざまな提言をしながら、観光振興のために奔走するというマルチタレントぶりで、「変な外人」(この日のコーディネーターの村田晃嗣前同志社大学長の紹介による=ただし、この人は「変な日本人」かも)と讃えられる人でもあるからです。先年に二階俊博自民党幹事長から勧められて読んだ『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』も面白かったと言わざるをえませんでした(私の『忙中本あり』で紹介済み)■さてさて、彼の講演は、案の定極めて刺激的な内容でした。一言でその主張を表現すると、世界史上未曾有の人口減に直面する日本は「観光で生きるしかない」というものでした。前段では日本の人口減に対する対応がいかに危機意識がないものであるか、と指摘。輸出小国である実態を自覚せず、未だ輸出大国だとの思い込みの大きさなど具体的で、かつ迫力がありました。外貨の稼ぎ頭としての観光をめぐっては、漸く日本も本気の取り組みを見せて、2013年には1000万人強だったインバウンドが、わずか三年で2.8倍になり、明年には4000万人になろうかとの勢い。観光収入ランキングでベスト10入りしている現状は隔世の感だ、と。かつて彼が観光の重要性を指摘した際に、乗り気ではなかった識者たちが、今頃になって手のひら返すが如く、「自分の指摘した通りだ」と言ってる、と皮肉たっぷりに。これには、身につまされたと思しき場内からも失笑が漂っていました■ただし、確かに日本の観光は伸びはしたものの、未だ未だ本当の力を出し切っていないとの指摘も重要でした。一つは、自然、気候、文化、食事と、観光に必要な4条件を全て満たす稀有な国であり、最大の強みが「自然」であり、最強の伸び代だという点です。日本ほど「自然」に多様性がある国は滅多にないこと、文化に「自然」を足すと、観光に呼びこめる層が広がること、自然観光は長期滞在になるので、多くのお金を使ってもらえることなどは、いずれも盲点といえるものでしょう。二つは、観光地の作り方において、付加価値に対する意識が大事なことです。アクティビティー、解説案内の有無から始まり、座る場所、カフェ、食事の中身などに至るまで、事細かな付加価値の大事さなど私は気づきませんでした。三つは、5つ星ホテルの数が極めて大事なことです。観光戦略の成否は5つ星ホテルによって決まるのに、アメリカ755を断トツに、イタリア176、フランス125、メキシコ93、インドネシア57などに比し、日本はわずか28という実態すら認識していませんでした■この講演を受けて行われたパネルディスカッション「都市の国際競争力を支える成長戦略」も興味深いものがありました。中でも面白かったのは、佐々木雅幸同志社大特別客員教授がリンダ・グラットンの話題の著作『LIFE  SHIFT』を持ち出したこと。これからの「人生100歳時代」にあっては、生涯教育が大事だとの引用をしたのです。仕事は単一なものだけではなく、いくつかのものを渡り歩くことが大事だとして、人生の途中で新たな知見を有するための勉学の期間を持つことの重要性に言及。そのためにも公的支援の必要性を強調していました。佐々木さんは、アトキンソンさんの言う観光力だけでなく、グラットンさんの生涯教育にも力を注ぐべしと言いたかったのでしょう。この議論、私が最近こだわってることと同じです。それだけに我が意を得たりの気分でした。尤も、D・アトキンソン氏も、L・グラットン氏も二人とも英国人。英国人に言われないと、我が立ち位置が分からない我々日本人の悲哀を感じないわけにもいきませんでした。(2018-8-5)

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