7千人を看取ったクリスチャン・ホスピス医

テレビの番組を録画してあとでまとめて観るというのは実に楽しい。早送りしたり、途中で止めたりするなど自在にできるため重宝でもある。最近二つの番組を深夜にじっくりと観て、いたく感じるところがあった。どちらもNHKだが、一つは『こころの時代』で『人生最後のおもてなし』(9・14放映)というもの。クリスチャン・ホスピス医の下稲葉康之さん(76)の心温まる話し方に深い感動を覚えた。この人は九州大学医学部時代にドイツ人宣教師に感化を受けてクリスチャンになった。その後42歳の頃にホスピス医になっていらい、今日までの35年ほどの間に7000人を超える人々を看取ってきたという▼不治の病に罹った16歳の少女が死を受け入れるまでの経緯には、いずまいを正さざるを得なかった。死ぬのが避けられないことを悟った彼女が、最期にウエディングドレスを着た写真を撮って欲しいと願い出るところなど涙なしでは観られない。彼は、様々な患者さんたちと接する上で、心に期しているのは,医者としてではなく人生の後輩(死を未だ経験していないという意味で)として、痛みや苦しみを<傾聴>し、<共有>させてもらうことだという。やせ衰えた患者さんから「病気になったからこそ、この病院にはいれて、先生に会えたのだし、イエス様を教えていただいた。本当に嬉しい」との言葉を聞くにつけ、震える思いがする、と▼一方、人気番組『知恵泉』は毎週欠かさず観ているのだが、自動車産業・ホンダの創業者、故本田宗一郎氏の生涯(「人がほれ込むリーダーとは」9・9放映分)は破天荒で、実に痛快だ。よく部下を怒ったというが、「私心で怒るな」がモットーだったし、怒った後の心配りがまた泣かせた。「人の心に棲め」というのが心憎い。最も感動的だったのは、「素直に負けを認める」という姿勢。部下たちから言行不一致を指摘されるや、自身の衰えを自覚し引退を決意するなんて実に潔い。巧みな演説上手も舌を巻くほど。人の心を鷲掴みにして、ほれぼれする。何よりも私が驚いたのは、社長を引退してから全国700か所の現場を回ったということ。社員一人ひとりに「お世話になった」と握手をしていったというのだが、なかなか出来ないことだ▼下稲葉さんと本田さん。牧師でホスピス医と自動車産業の創業者。分野を異にする二人の生き方をほぼ同時にテレビで観て、大いに共鳴した。キリスト教への批判的まなざしを正直私は持っていた。非現実的な神様への信仰についてステロタイプ的な見方をしていたのだが、ホスピスをし続けてきた人の、偽らざる優しい佇まいに圧倒される思いを抱いた。また、自動車産業の総帥たる存在といえば、現場から遠く離れた雲の上の人と思いきや全く違った心暖かい優しい現場の人だった。ともあれ、いいテレビ番組でいい人を観て大いに満足している。(2014・9・18)

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