保守、左翼、中道の3総合雑誌を比べ読む

3種の総合雑誌を月ごとに購入し出してほぼ一年が経った。あまり読まないことも多いが時に熱中することもある。11月号はかなり読む機会があったので、気に入った読み物だけを紹介したい。3種類とは、保守系の『文藝春秋』、左翼系の『世界』、そして中道の『潮』だ。三つ併せ読めば、バランスを欠くこともないか、との思いからだ。かつては、『諸君!』や『中央公論』もよく読んだものだが、前者は廃刊になり、後者は「読売」がバックについてから、精彩を欠いているように思われてならないから殆ど読んでいない。ちなみに新聞は、『日経』、『神戸』の二紙だけしかとっていない▼雑誌作りのうまさというのをいつも感じるのはやはり、『文春』だ。今月の総力取材は、「世界の『死に方』と『看取り』 12か国を徹底比較」という特集だが、なかなか考えさせられた。ジャーナリストの森健氏による報告のうち、脳卒中で倒れた老教授が13年間もの長きにわたって延命治療うけ、90歳を目前にして管につながれたまま亡くなったという話はインパクトが強い。当たり前の発言だがエイジング・サポート実践研究会を主宰する人の「医師の仕事は病気や怪我を治すことですが、老化は治せない」との言葉は重く響く。だから「終末期は治そうとするより、生活の質を高め、維持する医療のほうがよほど負担が少ないし、QOLも高い」のだ。死と向き合おうとせず、準備教育を怠ってきたツケは大きい▼『世界』は学生時代からしばらくはよく読んだものだが、ソ連崩壊あたりから読まなくなった。つい数年前の表紙のセンスのなさといえば信じがたいものがあった。このところようやくまともになった感がする。”朝日岩波文化人”という言葉が象徴するように、お高いところからの政権、政治社会批判が鼻についてならなかった。が、このところの左翼退潮が結果的に絶滅品種を守らねばとの思いを駆り立てたのかどうか、読ませる記事が多い。というか、大事な視点を提供してくれて面白く感じる。今月は特集「ヘイトスピーチを許さない社会へ」のうち、「メディア・バッシングの陥穽」が迫力があった。朝日新聞問題に事寄せて、その他新聞各社をはじめ、「現下の雑誌や出版における反知性主義の氾濫」は目を覆いたくなるという主張には全く共感する。しかし、そういう反批判も度が過ぎると首をかしげざるを得ない。「融合一体化する政府権力とメディア」を元毎日新聞記者の西山太吉氏に書かせたのはいいが、ここはむしろつい最近岩波書店から『戦後責任』を出版した大沼保昭さんを登場させてほしかった。『文藝春秋』が大沼さんに「慰安婦救済を阻んだ日韓メディアの大罪」を書かせていたのはさすがだと思った▼こういう二誌が時の話題を執拗に追っているのに比べて『潮』は、少々角度が違う。「結党五十年ー公明党の使命と責任」の狙いどころはいいが、識者に1000字メッセージを書かせるという切り口が機関紙・公明新聞や理論誌『公明』とさして変わらないのはいかがなものか。ここは他党の幹部やかつて公明党議員に苦しめられた閣僚を登場させるなど、もっと意表を突く企画はなかったか、と思う。むしろ上野千鶴子との対談『「アグネス論争」から27年』や黒川博行と後藤正治の記念対談が興味深かった。『潮』が営々として築き上げてきた出版界における実績は本当に凄いと思うだけに、時々の課題にもっと鋭く切り込んでほしいとは思う。(2014・11・1)

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