政権から脱落した10年前の反省ー公明党の二枚看板を検証する❹

前号(Vol  26)で、公明党の二枚看板のうち、「平和」の擁護についての検証を行いました。今回は、もう一枚の看板「大衆福祉」の実現について検証します。この原稿を書き終えたのちに、新型コロナウイルスが世界に蔓延して大きな被害をもたらしました。コロナ禍のもたらす影響は各国経済に計り知れないものがあると予測されます。そうした状況の変化はあるものの、検証の視座は変わらないと判断して、ここに(下)をお届けします。

時代を覆う暗雲へのまなざし

「気掛かりなのは、IR問題とイラン情勢です」ー2020年のお正月が明けたばかりの7日に神戸のホテルで開かれた恒例の公明党兵庫県本部の新年賀詞交換会で、山口那津男代表は挨拶の締めくくりで、こう語り、通常国会での厳しい論戦と対イラン外交への真摯な取り組みを約束した。この二つが現下の内外の政治課題であることは衆目の一致するところではあるものの、もっと根本的なところで時代を覆う暗雲は、経済格差がもたらす分断社会の現出であろう。気掛かりは、「庶民大衆を覆う生活不安です」と、言って欲しかった。今、わたしの周りでも普通の人々が生活の苦しさを訴える呻き声が聞こえてくる。公明党は立党いらい長きにわたって、大衆福祉の党として、面目躍如たる闘いを展開してきた。政治が取り組むべき課題として、政策のど真ん中に「福祉」を掲げて、存分にその成果を挙げてきた実例は枚挙にいとまがない。しかし、昨今の社会状況にあっては、必ずしも庶民大衆のニーズに応えていないのではないのか、との指摘も無視できない基底音をなしているものと思われる。

この連載下では、「福祉」編として、第一に、この55年間の公明党が培ってきた福祉の党としての実績が初めて揺らいだ10年前の民主党との政権交代時における総括を振り返る一方、次には、時代の変化の中で、変わっていかなければならぬのに、旧態依然としたままの対応がもたらす弊害もみていきたい。また、最後に、どうすればこの事態を打開できるかについて考察をこころみたい。

10年前の敗北時の検証結果

公明党の歴史は当然ながら、20年前の連立政権入りの前とあとで大きく異なる。与党に入ってその主張が形を伴うケースが一気に増えた。ただ、忘れられないのは10年前のことである。その年の夏に行われた衆議院選挙で、民主党が大勝し、自民党と公明党は大敗した。自公両党は、政権の座から転がり落ちたのである。公明党は選挙直後から直ちに、社会保障と安全保障の両分野(私は後者を担当)で、何故に負けたのか、全党挙げて検証を試みた。そのうち、社会保障制度調査会(坂口力会長)がまとめた検証報告は、極めて印象深い。「家計が悪化する中で社会保障の自己負担増を強いられることになった生活者の声を政治に反映するという公明党に期待された力を十分に発揮することができなかったことは反省しなければならない」としている。その上で、長きにわたる自民党政治の課題・問題点に対して公明党の立場から改善を求めてきたが、「大枠の改革を実現するまでは至らなかったことも確かである」と総括しているのだ。今から見ると、ちょうど折り返し点における貴重な検証になる。

具体的には、年金、医療、介護、障がい者の四つのテーマを巡って、その改革への取り組みの検証が試みられているのだが、「失敗である」「反省する」との文言がいくつも目立つ。年金の制度改革(2004年)では、負担増に歯止めをかけ、持続可能な制度にしたことに一定の評価はなされるものの、 根本的課題については問題先送りとの批判もあることを認めざるを得なかった。とくに国民年金加入の高齢者の不安解消に向けて、「自民党との合意に至らなかったのは残念である」としている。

後期高齢者医療制度では、保険料負担を巡って「個々の自治体や所得の相違から大幅に保険料が上昇する事態について十分把握されておらず事後的な対応に追われたことは失敗である」とすると共に、「新たな保険料負担が生じたという批判を受けることになったことは事前の国民に対する説明が明らかに不足しており政府・与党の失敗である」と結論づけた。

介護保険制度についても「『予防重視』の名のもとに、要介護認定が厳しくなるなど、給付を抑えることのみに目が向き、国民の意向に応えられない結果となったことは失敗である」と率直な捉え方をした。障がい者対応については、「わが党に恒常的に障がい者問題に取り組み、反映させる機関が不在であった(05年まで)」こともあり、「現場の声がキャッチできなかったため、大きな制度改正の論議に耐えきれず、役所に主導権をとられた」と極めてリアルな表現で反省している。

その後の目覚ましい実績

敗北の惨めさを噛みしめながらの総括。政党が自らに下した鉄槌はあまり類例を見ない。あれから10年。年金に関しては、無年金者救済法の成立に尽力した。受給資格期間(公的年金受給に必要な保険料納付期間)が25年と極めて長く、それに満たない人は無年金になっていた。それを一気に10年と縮小したのである。これによって困窮する無年金者は大幅に減ったことは間違いない。医療については、高額療養費の改善が挙げられる。限度額を引き下げ、中低所得者約4000万人の負担減を図ったことは大きい。病院の窓口支払いの高額負担の恐怖から解放したのである。介護にあっては、家族の介護を理由に離職せざるをえない人が後を絶たない状況の中で、企業に行動を促す「介護離職防止支援助成金制度」の創設を始め、介護報酬上げ、介護休業取得の円滑化などに力点を置いた。障がい者問題では、自立支援法成立および改正に伴う過程での懸命の努力が特筆される。

政権脱落時の背景にあった福祉政策の綻びを償うために、もう一度原点に立ち返っての公明党の闘いぶりはめざましく、挙げた実績はまことに数多い。(つづく)

 

 

 

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