淡路島から中国へ、福田元総理の優しい眼差し

アジア太平洋フォーラム淡路会議。淡路島にあるウエスティンホテルの「淡路夢舞台国際会議場」で、今年が16回目になる国際シンポジウムが、さる7月31日と8月1日の二日間にわたって開かれました。これまで参加出来なかったのですが、今年は初めて一日目にだけ参加しました。その理由は、福田康夫元総理が「アジアの未来」というタイトルで基調講演をされるというからです。福田さんには忘れられぬ思い出がいくつかあります。最大のものは、彼が官房長官の時に、私のいわゆる政経パーティにゲストとして参加してもらったことです。本来は経済評論家の大前研一さんが来る予定だったのに、一週間ほど前にドタキャンになり、急きょ福田さんがピンチヒッターに出てくれました。とても助かりました。しかも開会前に、手柄山にある戦没者慰霊塔にも訪問をしてくれました。ここは先の大戦時に無差別空襲で亡くなられた御霊を祭ってあるところで、わたしは靖国神社とはまた違った意味で大変に重要な場所であるとして、福田さんに、一度見てほしいとお願いしていたのです。ともあれ、わざわざ足を運んでいただいたことに感激をしたものです。おかげでパーティはかえって盛り上がり、面目を保てました▼福田さんの不思議なところは首相時よりも官房長官の時のほうがいい味を出しておられたように、今また元総理として八面六臂の活躍ぶりであるということです。恐らくその性格が当事者として物事をぐいぐい進めるというよりも、二番手、三番手としての脇役が向いておられるのでしょう。久方ぶりにお出会いしましたが、変わらぬ元気なご様子でした。「中国によく行っておられるようですね」と水を向けると「まあ、時々ね」と。共通の親しい女性記者が今北京支局にいるので、「行かれると彼女に会われるのでしょ」と返しても、むっつりと返事なし。私に対して「いま何してるの」「選挙もう出ないの」と話題を変えられるのです。「今は淡路島を起点に瀬戸内海にインバウンドする一大プロジェクトを手掛けています」「引退しましたから、選挙はもう出ません」というと、初めてにっこり。「お互い、定年後が最高だね」とのシグナルに見えました。カメラには一緒に収まってくれたものの、いまいち愛想がないというか、サービス精神に欠けられる。かつて総理に出られるに際して、あれだけ水面下でバックアップしたのに、とつい愚痴も出そうになりました▼講演はなかなかに聴かせました。彼は知る人ぞ知る親中国派です。対中批判のまなざしに対しては、かつて1980年代の日本を思い起こせばいい、と。あの頃は「日本脅威」論が専らだったが、今では遠い昔のことではないですか、と。だから今の「中国脅威」論も、やがて……というわけです。周りの国々があれこれ騒ぐほど、当事国は気にしないものなんです、とも。また、習近平主席については、人柄はいいし、国民的人気はかなり高いものがあると手放しの褒めようでした。南シナ海をめぐる一連の問題については「中国は反省していると思う。少し時間がかかるが、脅威を感じない方向で解決する可能性はあります」とも。また、「13億人もの人口を擁する国の統治の困難さは、日本の比ではない、同情を持って見てあげないといけないと思う」とも言われていました。聴いていてなるほどと思わせる説得力十分のものではありました▼日本と中国や、韓国との「歴史認識」については、「戦後70年」の今日いまだもって解決していないのは、残念としかいいようがない、との認識を示す一方、もうそろそろ”打ち止めにする必要”があると強調されたのは印象に残りました。こういう生々しい内外の重要政治課題について喋っても、安倍さんについてはまったく触れないことなど、一向に生臭さが漂わないところはこの人の人徳でしょうか。かつて、私は福田さんの父上である福田赳夫さんの流れを汲む政治家、学者が集まる「新学而会」に、中嶋嶺雄先生(元東京外語大学長、前秋田国際教養大学学長で私の学問上の師)のご縁で所属していました。政治家では、安倍さんのほかに、塩川正十郎、伊吹文明氏らが常連。学者では、中嶋先生のほかに、岡崎久彦、木村汎、西原正さんらが加わっていました。ある時に、福田さんに「先生も参加されないのですか」と訊いたところ、「古いひとばっかりだね。僕はいいよ」とにべもなかったことを思い起こします。ここに集まっていた人たちは、嫌中派とは言わぬまでも、「中国何するものぞ」との気概あふれる人たちが多かったのは事実です。中国、韓国との関係が極めて大事な局面になってくれば来るほど、福田さんの出番が多くなるような気がします。総理時代にやり残されたことを思い切りやってほしいものだと、しみじみ思った次第です。(2015・8・4)

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