スリランカ内戦から逃れた難民の姿に見るフランスの今

フランスで昨年起こった二つの事件は現代世界を根底から震撼させています。極東の離れ小島といっていい日本列島にいると、どうしてもテロは臨場感が乏しいことは否めません。アメリカ同時多発テロの「9・11」から15年ほどが経っていますが、あれ以来世界は基本的にはテロ戦争が続いています。テレビの映像や映画を通じてしか、フランスで起こったことはどうしても他人事としか見えないのはいかんともしがたいところです。であるからこそ、積極的に映像を追うように心がけています▼最近観たフランス映画『ディーパンの闘い』は、基本的にはスリランカの「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE)による同国の内戦の余波を描いているものです。2015年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた作品ということもあって興味を持ちました。スリランカは1983年から2009年にかけて政府軍対非政府武装組織による内戦が続きました。終結してから7年ほどが経とうとしています。映画は、内戦で妻もこどもも失った主人公ディーパンが戦禍から逃れるために、同じ運命におかれた女とこども(それぞれ赤の他人)を連れて、偽装家族の形でフランスに脱出するところから始まります▼正直いって半分くらいまではおよそ退屈でした。いわゆる戦闘場面がなく、逃げのびたフランスで淡々と落ち着くまでの生活が描かれるだけだからです。心理的葛藤の妙味を味わうのが苦手で、テンポの速い活劇展開にしか興味がない向きには睡魔との闘いすら忍び寄ってきます。しかし、後半は一転。現代フランスの荒廃した社会状況に3人が巻き込まれ、目を見張る展開ぶりです。当初は壊れかけた難民親子の関係がむしろ強い絆を持つべく鍛えられていくストーリーの流れや深みある心理描写は、さすが伝統を持つフランス映画だけのことはあります▼かつての仲間から、帰国して戦いに再び参画するよう呼びかけられる場面が挿入されています。だがディーパンはそれを断り、その後のスリランカの様子は一切出てきません。一方、フランスでのイスラム過激派によるテロをめぐる状況を想起させるような動きも出てきません。舞台は少し以前のことだからです。その意味ではあくまで偽装難民の行く末は疑問だらけです。最後に家族に赤ちゃんが誕生。フランス映画らしからぬとってつけたような幸せ観が漂いますが、私的には妙な違和感を持ちました。見終えて、スリランカの今や、フランスの今に真正面から迫る映画がもっと観たい。もっと両国の真実がしりたいとの思いが募ってきます。(2016・2・23)

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