9条に新たな規定を書き加えるとー「改憲と加憲のあいだ」➃

憲法9条をめぐっては長きにわたって正反対の立場からのぶつかり合いがある。ごく簡単に言えば、現実との大きな乖離があるから、現実に合わせて条文を変えていくのか、条文はあるべき理想を示しているのだからそれは触らずに、現実を一歩でも近づけていくべきだ、という改憲論と護憲論の二つだ。それに加えてもう一つの主張がある。それが9条にも新たな項目を加えていこうという加憲論だ。1項と2項はなにはともあれ日本社会に深く定着しているのだから、あえてそれは変えたりせずに、現実との乖離をそれなりに埋めるべく、足らざるを補おうという考え方である。公明党内の憲法調査会で、私もそういう提案をしたことがある▼これは、国際社会におけるPKO(国連平和維持活動)など、すでに多くの実績を残している国際貢献活動の根拠となる規定を設けることが具体例として挙げられる。もう10年近い歳月が経っているが、党内で主張した当時は寄ってたかって反対されたり、無視されたとの記憶がある。3項にわざわざ付け加えずとも、今ある法律の解釈で済むし、それで追いつかぬなら、新たに法律を作って対応すればいいとの考え方が支配的であった。だが、それでは私は満足できなかった。外交安全保障分野の責任者としての私の脳裏には、防衛研究所での「政党研修」の際に自衛隊中堅幹部から質問された場面が思い浮かんだからである。「憲法における自衛隊の位置づけを一日も早くしてほしい」との切なる要求だ。それをせぬまま新たな任務を課すことは更なる矛盾を追加することに思えた▼昨年実現した「安保法制」において「駆けつけ警護」という活動が新たに付与された。私が在職していたほぼ20年間というもの封印されてきていたPKOの本来任務のひとつが遂に陽の目を見たものである。これには忘れがたい思い出がある。中嶋嶺雄先生(東京外語大元学長、秋田国際教養大学元学長)が、かつて「赤松君、日本の参加するPKOには、駆けつけ警護の任務を付与させるべきだよ。でないと国際社会の一員として恥ずかしい」と懇願するようにいわれたものだった。もはや鬼籍に入っておられるので詮無いことだが、生きておられたらどんなに喜ばれたことか。これなど解釈改憲だとの批判があったが、私たちはそうは思わない。駆けつけ警護に伴って発生する「戦闘」は、憲法が禁ずるものとは異質のものだとの認識である▼いま安保法制論議を経て、憲法9条を加憲の対象にすべきかどうかがあらためて注目されている。公明党の現在の担当者は、議論の対象とすることはやぶさかではないとのニュアンスの発言をしている。これには、端からやる気がないのに様子見をしているだけとの見方が専らである。他方、9条に3項を加えるなどという矛盾の上に矛盾を上塗りするのは全く無駄だとの本質的な批判もある。そういう意味では、むしろ3項に「自衛のために自衛隊を保持する」などの規定をおき、それを受けて4項に国際貢献などの任務を書き加えるということも考えられる。これなら、自衛隊員の長年の念願も解決する。だが現実的には9条加憲は9条護憲と9条改憲の間を彷徨うだけかもしれない。ただ、この問題提起は打ち続く「不毛の対立」の壁を乗り越える糸口になる可能性は少なくないものと思われる。(2017・2・9)

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