小選挙区比例代表制のもとで初の総選挙ー平成8年(1996年)❷【20】

堂々たる朝寝坊

大前研一さんといえば、「平成維新」を掲げての政治活動で有名でしたが、当時は既にそれも頓挫してしまっていました。周りに集まっていた政治家たちも潮の引くように姿を消してしまっていたのです。そんな折に全く違った角度から市川雄一さんとの〝出会い〟がありました。あるテレビの討論番組で同席した両氏。そこで、大前さんを市川さんが厳しく嗜める場面があったのです。断定的な物言いが特徴的な大前氏ですが、少しばかり突出した発言を市川さんは聞き逃しませんでした。観ていてハラハラする一方、ある種溜飲を下げた思いがしました。大前さんは、その直後に国会の議員会館の市川部屋に挨拶に来られました。隣の部屋の住人として、大いに気になりました。同席したわけではないのですが、清々しい出会いとなって市川さんは満足しておられた風が伺えました。大前さんは、公然と自身の非を指摘されながら、むしろそれをきっかけに相手の存在を認めようとされたものと思われます。大前さんはこのように中々度量の大きな人でした。

そういう繋がりを基に始まった関係だけに、先に述べた海外経済事情調査は魅惑的なものとなりました。その旅の行程の最終盤。宿泊先はゴールドコースト。明日は帰国という夜のこと。市川さんから明朝は早い出発になるので、起こしてくれないかと依頼されました。著名な海岸を見ながら早朝にランニングを、と期していた私は二つ返事で引き受けたのです。ところが、なんということか。翌朝、大幅に寝坊をしてしまいました。出発の時間が近づいているのに、起きてこない私を気にしながら、自前で起きていた市川、大前のお二人はあれこれと話の花を咲かせていました。冷や汗100斗もので、恥ずかしさで消え入りたくなりながら、「申し訳ありません」と言うほかありませんでした。「君は本当に元秘書だったの?寝坊するなんて」と大前さんに呆れられたものでした。普段は何かにつけ厳しい市川さんでしたが、この失敗には敢えて拘泥されなかったことが、かえってずっしりと重く迫ってきました。若かったというべきか、能天気なのか。大失敗の巻でした。

比例名簿4位の座り心地

平成8年10月。衆議院が解散、小選挙区比例代表並立制での初の衆議院選挙となりました。私にとっては初当選から三年余が経っていました。残念なことに、小選挙区ではいかに新進党からといえども出馬は叶わず、他党出身の後輩にその座を譲りました。姫路市内の兵庫11区からは五島たけし氏。相生、赤穂、龍野市など兵庫12区からは山口つよし氏の二人です。私の近畿比例区名簿の順番は公示日当日に発表され、4位でした。正直、発表と同時に当選が決まったようなもので、嬉しいような信じられないような感じでした。足掛け5年もかかった過去二回の総選挙での死闘を思うにつけ、まるで狐につままれたような気がしました。贅沢言うわけではありませんが、こんなことで当選していいのかとのある種のモラルハザードを実感した次第でした。

この総選挙では、❶加藤自民党幹事長の不正献金疑惑❷消費税率5%アップの不当性ーこの二つが主な焦点となりました。結果は残念ながら新進党は解散時の議席を上回ることさえ出来ませんでした。政権を自民党中心の政権に再び委ねることになります。政治改革の嵐の中で誕生した新進党ー自民党に対抗するもう一つの政権交代可能な政党でしたが、あえなく潰えさりました。

「橋本行革」がスタートへ

11月7日召集の特別国会で第二次橋本内閣が成立しました。橋本首相はここから先、省庁改革に取り組むことになります。「橋本行革」の名で呼ばれる省庁再編は、それまでの1府22省庁を1府12省庁にするもので、2001年1月から施行されました。中央省庁等改革基本法のもとに、省庁のスリム化、公務員の削減、予算の節減を目指し、大蔵省の財務省、金融庁の分割が最大のポイントです。当時の腐敗しきった大蔵省への国民の怨嗟の声が背景にありました。

ペルー日本大使館の人質事件、病原菌O157騒ぎなどや広島原爆ドームの世界遺産認定などが話題となったこの年の暮れ。

押し詰まった12月26日の日経新聞の「あの人 この人 消息」欄に、「走り続けた一年間」というタイトルで私のことがコラム記事に取り上げられました。書き出しは、一年前の定期健康診断の結果、主治医から運動不足を指摘され、元日から走り始めた、とあります。国会で忙殺される時は、議員会館隣に併設されたトレーニングジムで汗を流す一方、皇居周辺5キロを約30分で走った(地元では姫路城周辺2キロ半を2周した)。その甲斐あって、体重が一年で5キロ落ち、「出ていたお腹も引っ込んだ。走る前の憂鬱さと走り終えた後の爽快さの〝落差〟がたまらない」と嬉しそうに語っています。51歳の冬のことでした。(2020-3-11公開=つづく)

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