[9]「日本沈没」とダブる恐怖ー高嶋哲夫『EV』を読む/12-2

 久方ぶりに面白くて怖い小説を読んだ。『EV』ー電気自動車。著者はあの『首都感染』で今日のコロナ禍を10年前に予言した高嶋哲夫さん。あの本の衝撃は忘れ難い。と言っても、10年前に読んだわけではない。コロナ禍で、話題になってからである。神戸でもう8年続いている「異業種交流ワインを飲む会」で出会ってから、親しく付き合って頂いている。その高嶋さんから、先日「自信作なんで読んで欲しい。とくに政治家の皆さんには」と言われた。読まないわけにはいかない。先週末上京した新幹線車中の往復を中心に読み終えた◆実はご本人に「読めというなら、贈呈してくれなきゃあ」と、おねだりした。してしまってから、いささかせこい自分を恥じると共に、実際に頂く(直接会う約束をしていた)前に自分で買って、読み終えて、驚かせてやろうとの悪戯心もおきてきた。かくして読み始めたのだが、ぐいぐい引き込まれた。気になるところに付箋を貼りながら、読んだのだが、前半の100頁ほどはまさに付箋だらけになってしまった。自動車をめぐる情報量がまことに多いのである◆つい先日、NHKスペシャルで、急速に「EV」への転換が迫られている日本の自動車産業の実情が放映されていた。550万人を越える関連企業の労働者。それだけに、一気にガソリン車からの転換は極めて難しい。何もかも変わってしまう。悩む業界の姿がその放映では赤裸々に描かれていて中々興味深かった。私の頭にはそれがベースにあったので、益々面白く興味津々で読めた。高嶋さんは、EVへの転換は止められない流れで、ぐずぐずせずに一気にいかないと、世界で取り残され、とんでもないことになるとのスタンスだ◆偶々民放でリメイク版の『日本沈没』が放映されており、欠かさず見ている。このテレビ映画では、省庁から選抜された若手官僚たちの奮闘ぶりが描かれている。それにそっくりの場面がこの本にも登場してくる。中国と米国の狭間で日本が悪戦苦闘する場面も似ていて、イメージがダブル。かたや地球そのものの異変がもたらす「日本沈没」。もう一方は産業構造の根底的変換がもたらす「日本社会の沈没」。見事なリアルさを伴って恐怖感が迫ってくる。高嶋さんと会い、種々語り合った。ご本人は「売れていない」「読まれていない」と残念がっていた。真面目過ぎる日本人には「ミステリー経済小説」は馴染まないのか。超ベストセラーになって欲しいものだ。(2021-12-2)

 

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