「宗教法人法改正」への不可解な動きー平成7年(1995年)【18】

発端はオウム真理教への対策

平成7年という年は社会的に極めて不穏な一年でした。年明け早々の阪神淡路の大震災に続き、オウム真理教の地下鉄サリン事件が起きたのです。巨大自然災害と超極悪犯罪。前者は一瞬にして兵庫県を中心に未曾有の大災害をもたらしました。後者は、人工的に首都機能を中心に地上世界を壊滅的に破壊しようとしたテロだったのです。我々の日常を根本から覆すこれらの動きに、為政者、多くの政治家はただただ戸惑い、為すすべを知らなかったというのが率直な印象でした。この二つの出来事がもたらした〝負の世情〟を背景に、政治的には奇妙な動きが蠢動します。「自社さ」という野合そのものの組合せの政権が、もう一つの政権勢力を目指した新進党の中核をなす公明党・創価学会を潰そうとしたのです。

それが顕著に現れたのが「宗教法人法の改正」という問題でした。これはあくまで表向きはオウム真理教による地下鉄サリン事件の再発を防止することが狙いでした。宗教者の仮面を被ったテロリスト集団を封じ込めるにはどうすればいいかが問われた法改正の発端でした。

宗教法人法改正の動きの背景

もともと宗教法人法という法律は、宗教法人に法人格を付与することを唯一の目的とする法律です。宗教法人が財産を取得したり、契約を結ぶなどといった法律行為を行う能力を得るためのものに限定したものです。端的に言ってみれば、団体にとっての出生届、戸籍登録に匹的するもので、それ以上でも以下でもないのです。宗教法人の宗教活動を規制したり、監督するためのものではありません。しかし、オウム真理教という集団が宗教法人の名を冠した存在であることから、一気にこうしたものを規制し、監督しようとする狙いが浮上してきたのでした。

政府が出してきた改正法案の骨子は、❶複数の都道府県で活動する宗教法人の所轄庁を都道府県知事から文部省に移す❷所轄庁への書類提出を義務化する❸信者、そのほか利害関係人から請求があった時には情報開示をする❹所轄庁に対して、報告聴取と質問権を付与するーなどというものでした。明らかに法の運用次第では「信教の自由」を侵すものでした。同法の基本的な性格を変えてしまい、宗教法人を監督、管理するために「宗教法人管理法」「宗教法人統制法」的なものへと質的に変更するものと見られたのです。まさにこれは羹に懲りて膾を吹くの例えそのもの、といえましょう。

拙速極まりない審議と露骨な公明党攻撃

当然のこととして宗教団体、関係者から一斉に反対の声が上がりました。しかし、自社さ政権の性急で強引な国会運営によって、10月31日の衆議院での審議開始から、わずか6日間で11月10日には衆議院宗教法人特別委員会で強行可決。同13日には与党・自社さ三党と共産党の賛成で衆議院本会議での可決となったのです。強行可決となった委員会審議の最終場面での新進党草川昭三氏(公明党・国民会議出身)の質問は、実に印象的なものでした。島村文部相の「(法案成立後には)創価学会を徹底的に身体検査してやる」との暴言を巡る追及でした。草川さんは、公明党の中でも際立って追及ものが旨い議員でしたが、とんでもない大臣発言を徹底的に暴き、聴くものの溜飲を一気に下げさせたのです。

参議院に舞台が移り、一段と政権側の姿勢は露骨になります。参考人質疑を要求してきたのです。最終的に秋谷栄之助創価学会会長(当時)が呼ばれることになり、12月4日の参議院宗教特委に他の5人と共に出席しました。この場で、秋谷会長は、「今回の法『改正』の背景にあるのは次期総選挙対策であり、対立政党の支援団体を攻撃しようという党利党略である」と強く批判した上で、この法案には「宗教団体の国家管理を狙う意図が隠されて」おり、「『信教の自由』を脅かしかねない性格である以上、絶対に許してはならない」と強調。財務関係書類の提出義務や所轄庁の「質問権」などが、政教分離原則に違反するものだとの認識を示しました。

さらに、秋谷会長は宗教が政治に関与する際の前提として❶国家権力を使って布教しない❷国家からの特別の保護や特権を求めない❸支持する政党や候補者が政治的に中立であることを求めるーとの三項目を挙げ、これまで一貫した姿勢であることを明確化するとともに、創価学会としてこれまで政党に対する献金は一切なかったことを改めて表明したのです。

この参考人質疑では、自民、共産党の委員は持ち時間のすべてを使って、秋谷会長のみに質問を集中、あたかも創価学会の選挙支援活動が違法であるかのように描き出すことに躍起となりました。しかし、会長はこれらの質問一つひとつに明快に答え、政教一致批判の誤りを明快に論破していく陳述をきちっと行っていきました。秋谷会長は普段から落ち着いた物腰の方ですが、この時ほど堂々たる姿を私自身は見たことはなく、心底から頼もしく思えました。(2020-3-4公開=つづく)

 

 

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