【85】「尖閣問題」に見る民主政権の稚拙さー平成22年(2010年)❹

●「尖閣問題」でてんやわんやの大騒ぎ

その事件は9月7日に起こりました。尖閣諸島周辺をパトロールしていた海洋保安庁の巡視船「みずき」と「よなくに」に、中国船籍と見られる不審船が体当たりしてきたのです。違法操業への退去命令を無視した上での不埒極まる行為です。このため、この船を停船させ船長以下乗組員を逮捕し、石垣島に連行しました。これから25日までの約20日間というものてんやわんやの大騒ぎになります。この間、中国側は「尖閣(魚釣島)は中国の領土である」との、強引な主張をもとに執拗な抗議を展開し続けます。日本政府は当初、船長のみを勾留し、他の乗組員を釈放したあと、船長も最終的に仙石官房長官の判断で釈放しました。

さらに、海上保安庁の職員がこの事件に関するビデオを流出させたことから、事件は益々混乱の度を増していきます。このビデオの公開をめぐり中国側への配慮を優先させる政府の判断が迷うのです。11月1日に衆参両院議員の代表30人がこれを見ることになり、私も加わりました。故意に衝突を仕掛けてきたことがリアルにわかる映像で、自公両党のの議員からは「正しい情報を示すことが今後の再発防止にも役立つ。国民に公開するべきだ」との要求が出ました。

この時の北京在住中国大使は丹羽宇一郎大使(元伊藤忠商事社長)。実は同大使が中国に赴任の直前に、衆議院外務委員会の理事との懇談の機会が持たれたのです。その際に、「できるだけ中国の隅々にまで足を伸ばし、大衆の生の声をきいてみたい」など、民間経済人としての強い抱負を述べました。さらに、様々なアドバイスをメールででも頂ければありがたい、と。軽快な言い回しに私は強く好感を持ったものです。そこで、あれこれとその後メールをしたのですが、一切無しのつぶて。以降、退任後様々の本を出版されたりしていますが、口先だけの人のように思われて、あまり読む気に私はなれないでいます。

●外務委員会で前原誠司外相と渡り合う

この事件のただなか10月27日に外務委員会が開かれ、私は質問に立ちました。その時の私の気分は、外務省は何をしているのか分からないとの怒りにも近いものでした。中国漁船の無法な狼藉に毅然と対応して、逮捕に踏み切った海上保安庁と、そしてそれを不起訴のまま釈放し、政治的判断だと苦しい言い訳の姿をさらけだした沖縄地検。方向は真逆ですが、共に目立ってはいました。それに比べて、政治・外交の出番だと言いながら、とんと出番のないのが外務省です。中国側が次々と繰り出してくるカードの前になす術もないというのがありのままの実態でした。

私は前原外相に、対抗措置として①中国人観光客の日本入国手続きの厳格化②機内持ち込み荷物(土産物)制限の厳格化などを迫りました。しかし、同外相は「目には目をというわけにはいかない」と消極的姿勢を示すだけ。一方、尖閣諸島を巡っては、従来から日中間には棚上げするとの暗黙の了解があったはずなのに、前原外相は明確に否定する方向に舵を切ったのです。ならばそれに伴う責任の所在があると強調、尖閣諸島周辺の実効支配を強めて行くことが大事だと訴えました。それには船着場の設置や、縦割りではない省庁横断的に取り組む仕組みを作るべきだと強調したのです。これらには同外相は全面的に賛意を表明しました。

●菅首相と予算委員会で対決

ついで11月1日には予算委員会が開催され、私は菅首相への質問に立ちました。そこでは①カネと政治にまつわるけじめ②国家主権と領土保全確保に向けての平和外交③社会福祉の確立ーの3点を取り上げて、問題解決に向けて、鍵を握る人物に会うことが大事だと極めて具体的な角度で指摘しました。①では鳩山由紀夫、小沢一郎の両氏②では温家宝と胡錦濤の両氏を指します。

当時、菅首相が小沢氏に会うことに躊躇しているように専ら見えたことが背景にありました。同首相は必要があれば会うが、現時点では岡田幹事長の努力を多とするなどと、人任せの逃げの答弁に終始したのです。同じ政党に属する幹部でも肌合いの違いや苦手意識が見えました。この時の質疑については、神戸新聞が「永田町から」というコラム(11月7日付け)で「献金受領再開、予算委で批判」との見出しで以下のように報じました。

【「企業・団体献金の再開を決定した民主党に多くの国民が失望した」。1日の衆院予算委員会で、公明党の赤松正雄衆議院議員(64)=比例近畿=は、民主党の決定を「マニフェスト批判」と厳しく批判した。菅直人首相が「自民党だけには(献金を)出しにくいという企業の声もある」と苦しい答弁をすると、野党の議員から失笑が漏れた。

小沢一郎・元民主党代表らの「政治とカネ」の問題については、「政治家と秘書の問題」との立場だ。自身も議員秘書の経験があり、「秘書にすべての責任を負わせる政治がクリーンなはずがない」と話す。

予算委では、政治資金規正法を改正し、収支報告書の虚偽記載で政治家本人の責任を問うよう提案。「傾聴に値する内容。大いに議論したい」との言葉を引き出した。(高見雄樹)】

この時の質疑では、菅首相の前に答弁した前原外相の「一部であれ再開したのは、今までの民主党の考え方と逆行したと国民はとらえるのではないかと思う」との発言がとても率直だと印象に残っています。

●秋田国際大でのシンポへー中嶋先生との約束果たす

これより少し前の10月15、16の両日秋田県にある秋田国際教養大学で開かれた『アジアの活力』と銘打った国際シンポジウムに参加しました。秋田空港から車で10分の広大な敷地の中にある杉木立の中。秋田県立中央公園やスポーツセンターなどの諸施設に隣接した同大学は噂通りの新天地に見えました。私の恩師中嶋嶺雄先生が学長兼理事長をされている大学で、一度来るようにと言われていたことがようやく実現したのです。尖閣諸島問題で揺れる日中関係のさなかではありましたが、それだけ一層充実した時間となりました。
中嶋嶺雄学長は冒頭に、「儒教、漢字、米食、箸と共通の文化圏に属するものの、大陸性、半島性、島嶼性といった異なる地政学的特徴を持つ中国、韓国、日本の違いというものを意識することが大切」であり、東アジアでは「新しい冷戦という認識が生まれつつある」という印象的な挨拶で口火を切られました。

ついで、朝日新聞の船橋洋一主筆が「東アジアの経済協力と安全保障」とのタイトルで基調報告。「上海万博でのアフリカへの強い関心など中国のバイタリティには動物的スピリットを感じる」と、約30年前の大阪万博と興味深い対比をしながら、同国の経済発展の実態を語りました。また、尖閣諸島を巡る問題では、「日中双方が未熟ゆえに、共に負けたのではないか。戦略的互恵関係とはレトリックに過ぎない」「経済カードを中国が切ったことは気になる」などと注目すべき見解を述べました。

またこれを受けて袴田茂樹青山学院大学教授や濱本良一読売新聞論説委員は、尖閣諸島問題が「世界に中国の本当の姿を知らしめた」ことは大きく、その結果「日本人が主権意識に目覚める」効用がうまれたとの認識を示しました。

この日の昼食時間に学内食堂でたまたま隣り合わせた男子一年生のM君とあれこれ話し合えたのは収穫でした。中嶋学長の精神が一学生にも脈打っていました。(2020-8-18公開 つづく)

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