【51】「何のため」を追い求めてー小説『新・人間革命』第12巻「栄光」の章から考える/1-20

●人間精神の開拓作業としての〝詩心〟

 「地涌の友よ いま 生命の世紀の夜明けに 陣列は幾重にも布かれたのだ」ーこの出だしで始まる、山本伸一の詩「栄光への門出に」と共に、1968年(昭和43年)の新年は明けました。この中にある「生命の世紀」との表現に、読むものは皆、未来への重大な使命を感じざるを得なかったのです。「戦争と殺戮の20世紀から、平和と生命の尊厳の21世紀へと転換しゆくことこそ、学会が成し遂げようとする広宣流布の目的である」ことを、私も強く自覚しました。22歳になったばかりの私は、55歳で迎える21世紀に大きな希望を抱いたのです。

 しかし、現実は、前年暮れに大学での定期検診の結果、肺結核と診断され、一年の入院治療を医師から宣告されていました。それに従うことは、親が信仰をしていなかった当時の私には、到底できませんでした。学会から離れよ、と親がいうのは目に見えていたからです。我が身の境遇の厳しさに愕然としましたが、新年号の詩とともに、負けるものかと大いに発奮し、親に内緒で通院しながらの下宿での闘病生活を始めました。

 伸一のさまざまな詩には、私も本当に根源的な勇気と希望をいただきました。「少年のころから、詩が大好きだった」という伸一は、「年齢を重ね、人の心が殺伐としていく世相を目にするにつれ、この〝詩心〟ともいうべき豊かな精神の世界を、人間は取り戻さねばならないと、思うようになっていった」と、その心情を吐露しています。そして、「仏法を弘める広宣流布の運動は、詩心を復権させる、人間精神の開拓作業である」との結論に到達した経緯が語られていくのです。(290-296頁)

●創価学園の出発の日を迎えるまでの日々

 この年4月8日、創価学園(中学、高校)が開校され、第一回の入学式が行われました。1950年(昭和25年)に恩師戸田城聖から学校設立の構想を初めて聞いて18年の歳月が流れていました。その間に伸一が着々と準備を重ね続け、この日を迎えたことが明かされていきます。(296-330頁)

   その数々の動きの中で、学校設立に伴うお金の問題が最も注目されます。学校建設の候補地を探すために伸一は妻の峯子と共に、小平市の玉川上水が流れる閑静な土地に向かいました(昭和35年4月5日)。その地に決める決断をしたのですが、オニギリを食べながら二人が語り合う場面は一幅の名画の趣きがあります。設立に要する費用を心配する峯子に「大丈夫だよ。ぼくが働くよ。これから本を書いて、書いて、書き続けて、その印税で、世界的な学園を必ず作ってみせるよ」と、伸一は言い、峯子は微笑んで頷いた、とあります。このくだりを読むにつけ、偉大な創造者の気構えの壮大なることに打ちのめされる思いです。

 それから6年後、昭和41年4月10日。購入した土地を視察した際に、伸一はその雑木林のあたり一帯が美しく保たれていることに瞬時気付きます。調べると、近隣の同志たちの真心による清掃(6年間で100回を数えた)のおかげだったのです。「今、創価高校の建設の話を聞いて、寄付をしたいと言ってくださる同志も大勢いる。この清掃といい、寄付の件といい、無名の庶民である会員の皆様が、創価教育の城を築き、守ろうとしてくださっている」ーこの創立者あったればこそ、創価学園は今日まで見事な発展をしてきました。この頃から今まで、ずっと創価学園の姿を見てきた者として、ただ感動あるのみです。

●学園寮歌の作成経過と高校生の心意気

 7月14日に寮祭(栄光祭)が行われ、そこで高校生たちが作った寮歌が披露されます。この寮歌が完成するまでの経緯は、生徒たちからの60編ほどの歌詞が寮長の永峰保夫の元に集められるところから始まります。その中で、大倉裕也という高校生の作品が選ばれ、音楽の教師である杉田泰之が作曲を担当しました。そして、一番から四番までからなる寮歌「草木は萌ゆる」が完成したのです。(349-356頁)

   「草木は萌ゆる武蔵野の 花の香かぎし 鳳雛の 英知をみがくは 何のため 次代の世界を 担わんと 未来に羽ばたけ たくましく」ーこの歌を聴いた伸一は、「いい歌だね。さわやかで、すがすがしい。そして、力強い。二十一世紀に羽ばたかんとする、学園生の心意気がみなぎっている。名曲が完成したね」と感想を述べています。そして、すぐのちに、五番の歌詞を自ら作って、〝師弟合作〟にするのです。

 「富士が見えるぞ 武蔵野の 渓流清き 鳳雛の 平和をめざすは 何のため 輝く友の 道拓く 未来に羽ばたけ 君と僕」ー「輝く友の 道拓く」の箇所には、学園生のために命がけで道を拓こうと決めた、伸一自身の決意が込められていた、と記されています。

 この歌の中で繰り返される「何のため」こそ、創価学園の永遠の精神だといえます。(2022-1-20)

Leave a Comment

Filed under 未分類

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です