【55】他の力を頼まず一人立てー小説『新・人間革命』第13巻「楽土」の章から考える/2-13

●沖縄の本土復帰から50年が経って

 「破壊は一瞬 建設は死闘」の一節で始まる伸一の長編詩「建設の譜」と共に、1969年(昭和44年)は開幕しました。この章では、沖縄についての根源的な伸一の思いが語られ、青年たちへの励ましと、壮絶な宿命と戦った同志の体験が紹介されていきます。

 本年2022年は沖縄が本土復帰して50年です。既に各種メディアでそれを記念した記事の掲載や特集番組が放映されています。日本本土の占領解放から遅れること20年、昭和47年に沖縄の施政権は日本に戻りました。しかし、米軍基地がどっかりと占める実態は変わらず、庶民の暮らしは依然として厳しいままの「47番目の日本」の現実は続いています。

 「楽土」の章では、まず2年前の第10回学生部総会での伸一の沖縄問題についての講演が述べられます。「核も基地もない、平和で豊かな沖縄になってこそ本土復帰である」との一節が印象的です。(300頁)

【真の繁栄と平和を勝ち取ることができるかどうかは、最終的には、そこに住む人びとの一念にこそかかっている。人間が絶望や諦めの心をいだき、無気力になったり、現実逃避に走れば、社会は退廃する】ー50年の歳月を隔て変わらぬ政治経済的沖縄の現実を見るときに、【楽土の建設は、主体である人間の建設にこそかかっているのだ。楽土を築こうとするならば、他の力を頼むのではなく、平和のために、人びとの幸福のために、自分が一人立つことだ】との記述が胸に迫ってくるのです。

 変わらざる現実を嘆くだけではなく、自力更生に一人立てとの伸一の叫びは、政治に関わってきた者として、その限界を悟ると共に、この世における根源的な力の在りどころを知って慄然とします。沖縄の本土復帰のありようを思う時、私は〝日本の独立未だならず〟を実感します。戦火は77年前に収まったものの、「戦争」は未だ続いているのだ、と。

●沖縄の青年たちへの根源的な励まし

 沖縄での三泊四日の滞在において、伸一がまさに寸暇を惜しみ、眠る時間さえ割いて会員を激励する様子が描かれています。その中で、私が強く感動するのは次の2節です。

 一つは、【励ましは、人間の心に勇気の火をともし、発心を促す。だが、そのためには、己の魂を発光させ、生命を削る思いで、激励の手を差し伸べなくてはならない。その強き一念の波動が、人の心を打ち、触発をもたらすのである】(338-339頁)

   もう一つは、「皆さん方が〝私がいる限り、この沖縄を平和の楽土にしてみせる〟との強い決意で信心に励み、社会の建設に立ち上がっていくならば、必ずや、沖縄を変えていくことができます。依正は不ニです。自分自身の生命の変革から、すべては変わっていくんです。運命を呪い、歴史を呪い、他人を恨んでも、何も問題は解決しません」(340頁)

   伸一の全国各地での激励、指導は何処でも平等に渾身の力を込めたものであることは当然ですが、沖縄だけは違うとの思いがこのくだりではどうしても沸き起こってきます。それはこの地が持つ「宿命」とでもいうべきものと深く関わっているように思えます。

●宿命の嵐に負けない名護の体験

 息子を病で亡くし、二人の娘を火事で亡くすという過酷な運命に翻弄されながらも、挫けず信心を貫いた名護の地区担当員だった岸山富士子の体験は、読むのも辛くなり、いずまいを正す思いに駆られます。「御本尊にすがりつくように唱題したかった。だが、その御本尊も火事で焼失してしまっていた」「火事以来学会への風当たりは強くなっていた」などの描写がその状況をなにより伝えています。

 伸一は岸山の事故にまつわる状況を聞き、胸を痛めながら指導を伝えます。「娘さんたちは御本尊に巡り合い、お題目も唱え、広宣流布のためのお母さんの活動に協力して亡くなった。それは三世の生命観に立つならば、今世で罪障を消滅し、永遠の幸福の軌道に入るために生まれて来たということなんです。来世は、必ず、幸せになって生まれてきます」「病気が治る。事業が成功するといったことも、信心の力であり、功徳ですが、まだまだ小さな利益です。本当の大功徳は、どんな苦悩に直面しても、決して負けない自分自身をつくり、何があっても、揺るがない大境涯を築いていけるということなんです」

 「負けるな。断じて、負けるな。あなたが元気であり続けることが信心の力の証明です」との伝言に、岸山は「私は負けません。名護の人たちに『学会は正しかった。すごい宗教だ』と言われるまで、頑張り抜きます!」と応えたのです。その後、夫婦揃って一歩も引かず頑張り抜いて、やがて地区を総支部へと発展させていきました。

 こうした苦難に直面しながら、断じて負けなかった人を私も少なからず知っています。そのたび、自分も負けない強い境涯の人間にならねば、と決意を新たにしてきました。(2022-2-13)

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