【66】陰の推進力あってこその「兄弟会」ー『小説・新人間革命』第17巻「本陣」の章から考える/4-17

●遠心力と求心力ー師弟不ニについての迷い

 創価学会の歴史の上で広布第二章と呼ばれる、1973年(昭和48年)が幕を明けました。伸一は、戸田城聖先生が逝去された昭和33年の冒頭に詠まれた「今年こそ 今年こそとて 七歳を 過ごして集う 二百万の民」の歌を思い起こします。この歌の由来は、7年前の昭和26年に遡ります。その年の5月3日に第二代会長に就任された戸田先生は、会員75万世帯(200万人)の達成を宣言されました。この願業は昭和32年12月に達成。うたい残された大願成就の戦いの要諦が新年に語られます。

 この「今年こそ」の一念の決意に立ち返り、伸一は再び勇猛果敢な大闘争の開始を誓ったのです。まず青年部への〝激烈な鍛え〟からこの章は始まります。(15-36頁)

 各部部長会の席上、男子部長の野村勇が伸一に以下のように質問します。「『広布第二章』を迎えて、学会は社会に開かれた多角的な運動を展開していくことになりますが、その際、心すべきことはなんでしょうか」ーこの質問こそ、当時の男子部の最大の関心事でした。社会の各分野で勝利の実証を示すために、どう戦うかと思い悩んでいたからです。

 伸一は即座に答えた。「師弟の道を歩めということです」(中略)  「君は、なぜ『師弟の道』なのか、疑問に思っているのだろう。それは遠心力と求心力の関係だよ』(16頁)

 野村勇は当時の男子部員の衆望を担ったリーダーでした。社会的に優れた人材をどう輩出するかに強い関心を持っており、後輩たちにもそれはよく分かっていました。ー「師弟の道」は分かっていますが、その上に立ってどうするかですー伸一はそんな男子部員たちの思いを代弁する野村の言動の奥底を見抜いていました。

 「遠心力が強くなればなるほど、仏法への強い求心力が必要になる。この求心力の中心こそが、師弟不ニの精神だ」

 生意気で増上慢な私など、このくだりこそ自分に与えられたものとの思いを強く抱きます。かつて、私は信心を円(組織)と点(人)に例えて、こう説明していました。求心力と遠心力のバランスがとれた状態が〝円周上の点〟で、遠心力が強過ぎると、点は円周上を越えて飛びだしてしまう。点は求心力を強めて円の中心に近づくことが大事。理屈でこう言いながら、一方では、それは分かってるという傲慢な命もどっかりと居座っていたのです。

●中野区での「青少年スポーツの集い」

 この年、2月4日。伸一は「中野・青少年スポーツの集い」に出席するために、区体育館に向かいました。記念撮影や懇談をしながら、伸一は集まっていた1300人余のメンバーを前に、こういいます。(44-62頁)

 「戸田先生の師子の精神を受け継ぐ中野の皆さんは、学会員の誰からも、〝中野の同志がいれば、大丈夫だ〟といわれる人材の山脈を、また、友情の万里の長城を築いていってください。そして全員が社会にあって、それぞれの分野で第一人者となり、見事なる信心の実証を示していただきたい」

 このあと、みんなに将来何になりたいかを問いかけていきます。女優、アナウンサー、国連事務総長、作家など次々と声があがっていきました。「みんなの将来の希望をメモに書いて提出してください。そして、それぞれが、自分の掲げた目標に向かって、三十年後をめざして進もうじゃあないか!」「青年は大志をいだいて社会で力をつけ、リーダーになっていくことが大事です。力なくしては何もできません。(中略) そして、これから三十年間、二月四日を中心にして、毎年、集いたいと思うがどうだろうか!」

 「中野兄弟会」はこうして誕生しました。伸一は集った青年たちに目標を自ら決めさせ、一人一人がその成就に向かってどう努力していくかを見守ることにしたのです。毎年、本部周辺などに集い、お互いの成長を確認しあっていきました。皆が感動したのは伸一の出席であり、それが叶わずとも、その深い思いが毎回うかがえたことなのです。

 「中野兄弟会」は、明年結成50年を迎えます。今もなお、毎年2月4日前に、藤井達也(モデルの実名)議長からそれぞれの現状をたずねる激励の葉書連絡が入ります。彼のもとの事務局メンバーが実態の報告をまとめ本部に提出しているのです。伸一とのあの日の誓いが持続しているのはひとえに、この事務局の重い責任感と結束のおかげなのです。伸一はそのことをこう述べています。

   【彼は自らが表舞台に立とうとするのではなく、皆の陰の力に徹する、謙虚な人柄であった。その責任感は、人一倍強く、深夜までかかって黙々と書類をまとめ、忍耐強く、懸命に皆と連携をとってきた。(中略)  物事が存続していくには、必ず、陰の推進力となって、地道に献身している人がいるものだ】

 藤井議長を間近で見てきた私は心底から、この人あっての「中野兄弟会」を実感します。(2022-4-17)

 

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