【105】問われる文明の在り方──小説『新・人間革命』第27巻「若芽」の章から/2-3

●国家のためでなく、子ども自身の幸福のために

 1978年(昭和53年)4月9日。東京創価小学校が小平市鷹の台で開校します。ここに創価一貫教育が完成を見たのです。2年前の起工式は、創価教育の父・牧口常三郎先生の33回忌を目前にした11月3日でした。その際に、伸一は心の中で、こう牧口に語りかけたと、記述されています。(36-37頁)

   〝牧口先生!先生は、国家のための人間をつくろうという教育の在り方に抗して、子ども自身の幸福を実現するために、創価教育を掲げて立たれました。今、その創価一貫教育の学舎が、この小学校の建設をもって、完成を迎えます。どうか、新世紀を、五十年先、百年先をご覧ください!人生の価値を創造する人間主義教育の成果として、数多の創価教育同窓生が燦然と輝き、世界の各界に乱舞していることは間違いありません〟

 私の娘はこの8年後に東京創価小学校の学舎に通いだしました。6年間のあの日あの時の思いが胸をよぎります。私が関西の地、生まれ故郷・姫路に転居したため、残念ながら娘は創価中学校には行けませんでした。そのことが時に思い出されます。自分の新しい船出に思いが強く、未聞の初めての地に赴く家族へのこまかな配慮が足りなかったかもしれないとの後悔もないではありません。であるがゆえに、一層、小学校の6年間が〝一生の宝もの〟として刻印されているに違いないと確信しています。

●今こそが大転換のとき

 入学式において、教育にかける自分の真情を伸一は、次のように語っています。

 「人類の未来のために、最も大切なものは何か。それは経済でも、政治でもなく、教育であるというのが私の持論です。人類の前途は、希望に満ちているとは言いがたい現実があります。長い目で見た時、今日の繁栄の延長線上に、そのまま二十一世紀という未来があると考えるのは間違いです。社会の在り方、さらには文明の在り方そのものが問われる大転換期を迎えざるを得ないのではないかと、私は見ています」(53頁)

    伸一は、そういう文明の在り方そのものが問われる時のために、「人類のため、世界平和のために貢献できる人間を腰をすえて育て上げていく以外に未来はありません。そのための一貫教育です」と語ったのです。

 それから45年。今、人類を取り巻く状況は、いよいよ行き詰まりを見せています。ものの見事に伸一は今日の世界の到来を予測して、「教育」の大事業に取り組み、手を打ってきたといえます。小学校から大学へ、創価の一貫教育のもと、育まれた人材が世界中に羽ばたいています。その彼らを中核に、「老壮青少一体」となった、〝校舎なき総合大学〟で学んだ人間群が、歴史を大きく転換させる正念場が今だ、と私は思います。

 統一地方選挙を目前に、公明党の候補者が勢揃いし、創価大卒の経歴が目立ちます。政治家はこのように歴然と人の目につきますが、それ以外の分野では学歴はそう目につく機会はありません。しかし、それこそあらゆる分野で創価教育の門下生が黙々と、その力を発揮していることを私は知っています。かつて、高等部で担当した生徒たちだけを見ても、医師に、学者に、司法界に、官僚に、ジャーナリズムにと、一杯いるのです。

●お世話になった人にはお礼を

 この章では、文字通り、至る所で伸一が子どもたちや教職員らに対して述べた助言が登場して注目されます。印象に残る言葉を挙げてみます。(55頁-62頁)

※皆が人材である。それぞれの能力を生かすには、たくさんの評価の基準、つまり褒め称える多くの尺度をもつことが大事になる。

※生きるということは、自分の歴史を創っているということなんだよ。そして最高の歴史を創るためには、勇んで困難に挑戦していくことが大事です。偉人というのは、困難に挑んだ人なんです。

※どんな役割であれ、自分の役割の重要性を自覚し、全力を注いでいくことの大切さを訴えたかった。

※権威を誇示しての教育は子どもの心を歪める。魂の触れ合いを通して育った信頼こそが、教育の基盤だ。ゆえに、伸一は、児童との接触を何よりも大切にしたかったのである。

 そんななかで、伸一が「せっかくの機会だから、校長先生始め先生方に『ありがとうございます』と言おうよ。先生たちは、いつも、みんなが帰ったあとも、後片付けをし、みんなのことを心配してくださっているんだよ」と、述べて、「ありがとうございます」と言わせるところが出てきます。「お父さんやお母さん、またお世話になった人には必ずお礼を言うことが大事です。それが人の道なんです」と。

 かつて、池田先生は、ある会合で、お世話になった支持者の皆さんにお礼をいうんだよ、と「ありがとうございました」というように、私たち政治家に促されたことがあります。私は頭の上げ方が早いと厳しく叱られました。奥底の一念を見抜かれたのです。(2023-2-3)

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