【107】「魔王」に支配された指導者──小説『新・人間革命』第27巻「激闘」の章から考える/2-12

●音楽隊スピリットを体現した2人の隊長

 会長就任18周年になる1978年(昭和53年)5月3日の記念式典のあと、伸一は5日の「創価学会後継者の日」を祝しての未来部代表との記念撮影、音楽隊の全国総会へと挑みます。「第一回創価学会男子部音楽隊総会」のパネルの前。隊員の輪の中で1人の青年を抱きしめる伸一の笑顔が輝く挿絵が目に飛び込んできます。

 終了後にテレビ局や新聞各社の記者と懇談会がもたれました。そこで、青年たちとの信頼関係をどう築いてきたのか?と問われ、次のように語る場面が印象的です。

 「ありのままに、お答えします。私は、今日も、〝ひたすら諸君の成長を祈り、待っている〟と言いました。また、一切をバトンタッチしたい〟とも語りました。青年たちに対する、その私の気持ちに、嘘がないということなんです。(中略)  青年に限らず、皆が喜んでくれるならと、たとえば、去年一年間で、色紙などに1万784枚の揮毫をしました。つまり、私は、本気なんです。だから、その言葉が皆の胸に響くんです。だから、心を開き、私を信頼してくれるんです」(220頁)

    また、多様化する価値観の中で、青年たちに強く訴えておられるのは?と聞かれて、次のように答えます。

 「私は、青年には、生き方の根本的な原理と言いますか、人生の基本となる考え方を訴えるようにしています。いわば、その原理に則って、各人が、それぞれの具体的な問題について熟慮し、自ら結論を出してもらいたいと思っているからです。そのうえで、私が強調していることの一つは、『苦難を避けるな。苦労しなさい。うんと悩みなさい』ということです」

 音楽隊というと、私は2人の全国隊長を思い起こします。1人は有島重武さん。大学の先輩で第一回慶大会発足(昭和43年4月26日)の際が初対面でした。当時は衆議院議員になられたばかり。のちに記者として取材もさせていただきました。もう1人は、小林啓泰さん。中野区男子部仲間で、歳上ながらいつも支えていただきました。後に民主音楽協会のトップになられましたが、いつも快活無比で颯爽とされていました。お二人とも誠実そのもの。音楽隊スピリットを骨の髄まで体現された、素晴らしい〝楽雄姿〟が目に焼き付いています。

●「第六天の魔王」とは何か

 このあと、伸一は九州研修道場へ飛び、5月15日には、自ら研修を担当します。「辯殿尼御前御書」(御書1224頁)を用いて。「広宣流布を進めようとするならば、必ず第六天の魔王が十軍を使って、戦を起こしてくる」とのくだりです。

「なぜ、第六天の魔王が戦を仕掛けてくるのか。もともと、この娑婆世界は、第六天の魔王の領地であり、魔王が自在に衆生を操っていたんです。(中略)  ゆえに、成仏というのは、本質的には外敵との戦いではなく、我が生命に潜む魔性との熾烈な戦いなんです。つまり、内なる魔性を克服していってこそ、人間革命、境涯革命があり、幸せを築く大道が開かれるんです」(261-262頁)

  ここはなかなか仏法と無縁の普通の衆生には分かりづらい箇所だと思われます。人間の生命の働きをこうした喩えで表現されても、感情的に拒否するという人が多いでしょう。しかし、じっと考えると、人間の生命そのものが不可解としか言いようがありません。そこを悟った超越的な洞察力を持った仏的存在から、「第六天の魔王とは、『他化自在天』ともいって、人を支配し、意のままに操ることを喜びとする生命であ」り、「戦争、核開発、独裁政治、あるいはいじめにいたるまで、その背後にあるのは、他者を自在に支配しようとする」ものといわれると、分かるような気がしてきます。「プーチン」の現状と重なって。

●十軍の意味するもの

   続いて、「十軍」の講義がまた興味深いのです。

 「では、魔軍の棟梁である第六天の魔王が率いる十軍とは何か。十軍とは、種々の煩悩を十種に分類したもので、南インドの論師・竜樹の『大智度論』には、『欲』『憂愁』『飢渇』『渇愛』『睡眠』『怖畏』『疑悔』『瞋恚』『利養虚称』『自高蔑人』とある」(263頁)

   ここは5頁にわたって展開されていますが、最後の10番目の「自高蔑人」が核心を突いて迫ってきます。

 「これは自ら驕り高ぶり、人を卑しむことです。つまり、慢心です。慢心になると、誰のいうことも聞かず、学会の組織にしっかりついて、謙虚に仏法を学ぶことができなくなる。また、周囲も次第に敬遠し、誤りを指摘してくれる人もいなくなってしまう。社会的に高い地位を得た人ほど、この魔にたぶらかされてしまいがちなんです」

 仏法は魔との戦いと聞いてきました。人生は仏と魔との戦いだとも。我が父は「男は外に一歩出ると7人の敵がいると思え」が口癖。大事な教訓と戒めてきましたが、その前に己心に敵がいることも銘記しないといけません。(2023-2-13)

 

 

 

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