【113】「南北問題」の懸念的中──小説『新・人間革命』第29巻「常楽」の章から考える/4-5

●「南北問題」をめぐるガルブレイス博士との対談

 【対話は、人間の最も優れた特性であり、それは人間性の発露である。語り合うことから、心の扉は開かれ、互いの理解が生まれ、友情のスクラムが広がる】──「常楽」の章はこの一節から始まり、アメリカの経済学者で『不確実性の時代』などの著者として知られるハーバード大学のJ・K・ガルブレイス博士との対話が展開されます。  1978年(昭和53年)10月10日のこと。会談に同席していた出版社の社長(講談社の野間省一氏)の「『南北問題」に日本は何をすべきか』との問いに対する2人の答えが注目されます。(16-24頁)

 博士は①富の一部を貧しい国に資本のかたちで供与する②農業による貢献を挙げ、「貧しい国の人びとが本当に必要としているものは何かを考えることです」とした上で、山本会長に意見を求めました。同会長は、博士の主張に賛意を示す一方、「経済次元の物質や技術の一方的な援助をし続けていくだけでは、国と国とが単なる利害関係になったり、援助を〝する国〟と〝される国〟という上下関係になったりすることが懸念されます」と述べ、「相互の信頼関係を築いていくことが不可欠です」と答えています。

 山本会長は、「忍耐強く10年、20年、50年と行う以外に永続的な信頼の道は開けない」と思うが故に、「人間対人間を基調とした教育・文化の恒久的な交流の必要性」をずっと訴え続けてきたと強調。博士もこれに賛同の意を表明したのです。

 この時から45年。山本会長の懸念した通り、残念ながら南北問題は収束せずに、益々、援助国=北と、被援助国=南の格差は広がりを見せています。その背景には相互の信頼関係が築かれないばかりか、更なる怨念が重なり、問題は深刻化する傾向にあります。今これは「グローバル・サウス」と呼ばれていますが、本質は同じです。諦めずに、同会長の指摘通り「人間を基調にした相互の信頼関係」を進めていくべく、公明党が与党として自民党にもっと強く働きかけて、現在の歪な世界経済の構造を改める努力を続けるしかないと思われます。

●御本尊謹刻問題での謀略

 この頃、日蓮正宗の僧侶が学会批判を繰り返していました。伸一は、日蓮大聖人御在世の弘安2年(1279年)に起こった「熱原の法難」の歴史を振り返りつつ、「殉教」について思索を巡らせていきます。天台宗寺院の弾圧によって犠牲者が出た問題から、1978年当時の宗門による種々の難詰事件へと焦点は移動していきますが、現代の信仰を考える上で極めて重要な糸口になります。

 きっかけは、学会のご本尊謹刻問題でした。紙幅のご本尊を板御本尊にするという過去から行われてきたことについて、若手の僧侶が騒ぎ出し、謝罪要求を強く責めてきたのです。この背後には弁護士の山脇友政と宗門の悪僧との結託による謀略があったのです。

 学会は、総本山の大講堂で行われた代表幹部会の場で、争う姿勢を取らず僧俗和合の観点から宗門の要求に応じることにしました。伸一は不本意ではありましたが、自分が耐え忍ぶことで会員同志を守れるならばと、卑劣な僧侶の攻撃にピリオドを打つべく、次のように呼びかけました。

 「広宣流布は、万年への遠征であります。これからが、二十一世紀へ向けての本舞台と展望いたします。どうか同志の皆さんは、美しき信心と信心のスクラムを組んで、広々とした大海のような境涯で進んでいっていただきたい」(78頁)

   広宣流布とは流れそのものと頭では思っていても、現実には私はゴールを常に意識していました。「万年への遠征」「大海のような境涯で」との言葉に覚醒する思いを抱いたものです。

 ●加古川から姫路への〝激励行〟の余韻

 伸一は11月5日に落成したしたばかりの泉州文化会館での様々な激励指導を終えて、13日には兵庫の加古川文化会館、14日には姫路文化会館結成18周年記念勤行会に出席します。

 そこでは「これからは兵庫県が大事だ。兵庫が強くなれば、それに啓発されて大阪も強くなる。両者が切磋琢磨し合っていくならば、それが関西の牽引力になり、日本、世界の一大牽引力となる。また兵庫県を強くするには、これまで、あまり光の当たらなかった加古川などを強化していくことだ。それが、永遠なる常勝の王者・関西を築くポイントです」「あの姫路城のごとく、堂々たる信念の仏法者であってください!」と力説しました。(120-121頁)

 私が生まれ故郷の姫路に戻ったのは、1989年の暮れ。この訪問の時から10年余りが経っていました。播磨地域のどこへ行っても、この時の山本会長の〝激励行〟の余韻が強く残っていたことを明確に思い出します。さらに25年ほどが経った今、関西の中で、兵庫の占める位置がひときわ大きくなり、大阪との連携が一段と強まる一大牽引力となっていることを実感します。(2023-4-5)

Leave a Comment

Filed under 未分類

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です