【114】人間中心から自然中心へ──小説『新・人間革命』第29巻「力走」の章から考える/4-12

●環境問題を軸に「地方の時代」で提言

 1978年(昭和53年)11月18日に開かれた本部幹部会は、創立48周年の本部総会の意義も込められていました。昭和5年から「7年を一つの節」にして刻んできた「7つの鐘」の歴史も、翌年で鳴り終える(7×7=49年。5+49=54年)ことになり、大きな意味がありました。総会の席上、伸一は今や人類的課題となった「環境問題」を中心に「地方の時代」などについて提言を行うことを予告。翌日付けの聖教新聞に発表されたのです。(123-130頁)

    そこでは、日本の近代は「消費文明化、都市偏重」によって「過密・過疎や環境破壊が進み」、「地方の伝統文化が表面的、画一的な中央文化に従属させられてきた」との認識のもと、創価学会の役割として、「一人ひとりが地域に深く信頼の根を下ろす」なかで、「地道な精神の開拓作業」をすることによってしか「真実の地域の復興もあり得ない」と訴えていました。

 また、環境問題については、西洋近代の「人間中心主義」が公害の蔓延に見るように既に破綻しており、「東洋の発想である自然中心の共和主義、調和主義へと代わらなければ、抜本的な解決は図れない」と捉えた上で、「〝内なる破壊〟が〝外なる破壊〟と緊密に繋がっているとすれば、〝内なる調和〟が〝外なる調和〟を呼んでいくこともまた必然である」と、人間の内なる変革、人間革命の必要性を結論づけていました。

 「環境問題」は、21世紀に入って一段とその重要性が語られてきており、2030年までに、差別、人権、貧困などの諸課題と共に、SDGS(持続可能な開発目標)の旗印のもとに、根本的な解決が目指されています。しかし、現実はコロナ禍で世界の相互依存、相互扶助が求められているにもかかわらず、ウクライナ戦争で世界各国は幾重にも分断状況が深まるばかりで、事態は混迷の度を増し続けています。さてこの時に人類はどう対応するのか。私は創価学会SGIによる人間変革の一大潮流を世界中に巻き起こすしかないと思うのですが。

●怨嫉についての深い考察

    伸一は各地での懇談で、信心をする中での種々の課題について語っています。そのうち、この年12月1日に三重県名張市で行われたドライブインでの懇談は「怨嫉」がテーマとなったとても印象深いものと思います。

 「実は怨嫉を生む根本には、せっかく信心をしていながら、我が身が宝塔であり、仏であることが信じられず、心の外に幸福を追っているという、生命の迷いがある。そこに、魔が付け込むんです。皆さん一人ひとりが、燦然たる最高の仏です。かけがえのない大使命の人です。人と比べるのではなく、自分を大事にし、ありのままの自分を磨いていくことです。また、自分が仏であるように、周囲の人もかけがえのない仏です。だから、同志を最高に敬い、大事にするんです。それが、創価学会の団結の極意なんです」(161-162頁)

    「怨嫉」が原因で信心から遠ざかる人を私も沢山見てきました。人間関係を危うくする最大のトラブル因かもしれません。金銭、病気などよりもむしろ厄介なものともいえます。人と自分との比較、人間相互の比較──好きか嫌いかが根っこにあって、理性が狂わされるケースは数多あるのです。これらを乗り越えるには、「ともかく、題目を唱えていけば、自分が変わります。自分が変われば、環境も変わる」との原理に立つしかないと思われます。

 神も仏もあるものか──ひとは逆境に立たされ、自分の思い通りにことが運ばないと、このセリフを吐きがちです。ここでいう「神も仏も」は、「自力」でなく「他力」の象徴表現です。「自分自身が仏だ」との核心的境地に立てば、周りの環境を動かすことができるのです。神(諸天善神)は環境であり、仏は自分自身であることに、気付かないことに根本原因があります。神も仏も紛れもなく存在する、あるのです。

●高知での師弟愛

 伸一は三重から、高知に飛び、支部結成22周年の記念幹部会に出席します。この地には2年前に県長として東京から、日本橋育ちの島寺義憲が派遣されていました。赴任時に35歳だった彼を伸一は激励します。その時の言葉、高知への思いが印象深く迫ります。(173-229頁)

 「心の底から皆を尊敬し、周囲の人があの県長を応援しようと思ってくれるリーダーになるんだよ。もう一つ大事なことは、一人ひとりと繋がっていくことです。皆さんのお宅を、一軒一軒、徹底して回って、友人になるんだ」などと懇切丁寧に語っていきます。

 この島寺のモデルは東京中央区の草創期からの信心強盛な一家の次男。実は長男が私の職場の上司で、若き日様々な影響を受けました。三男が男子部で一緒に戦った仲でした。伸一との縁も深く絆も強い関係であることを念頭に読み進めると、師弟愛の奥深さが伝わってきます。(2023-4-12)

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