【118】自在無礙の境涯への障り──小説『新・人間革命』第30巻上「雌伏」の章から考える/5-11

●「人生は総仕上げの時が、最も大切である」

 伸一が 第三代会長を辞任して名誉会長になり、学会も新しい体制がスタートしました。と同時に週刊誌などマスコミは喧しく「会長辞任」を取り上げ、「学会は滅亡に向かう」と囃し立てました。そんな中、伸一は悠々と海外の要人と会談する一方、日本の有識者とも対話し、そして会員への激励も重ねていきました。1979年(昭和54年)5月11日には立川文化会館で次の詩を詠んでいます。深い感動を抱かざるをえません。

 西に満々たる夕日 東に満月煌々たり 天空は薄暮爽やか この一瞬の静寂 元初の生命の一幅の絵画 我が境涯も又 自在無礙に相似たり

 また、草創の同志に会うと必ず、「人生は、総仕上げの時が最も大切である」と強調していました。過去にどんなに活躍し、栄光の歴史を残したとしても、晩年になって退転してしまえば、結局は敗北の人生となってしまうと述べ、「生涯求道」「生涯挑戦」「生涯闘争」の精神を持ち続けていくなかにこそ、三世永遠にわたる燦然たる生命の勝利がある、と強調していました。(130頁)

    そんななか、新出発から半年ほど経った時に、伸一は青年たちと懇談します。みんな元気かと尋ねた際に、彼らは、「先生が会合で指導されることがなくなり寂しい」とか、新しい活動を提案しても、壮年の先輩たちが賛成してくれない、と訴えます。これに対し、伸一は「経験則」について、こう語ります。

 【経験則という裏づけがあるだけに、年配者の判断には間違いが少ない。しかし、自分が経験していない物事には否定的になりやすい。また時代が大きく変化している場合には、経験則が役に立たなくなる。それが認識できないと、判断を誤ってしまう】(173頁)

   このテーマで私自身の経験で連想するのは、公明党や創価学会内部でのPKO (国連平和維持活動)をめぐっての議論が紛糾した時のことです。日本の戦後史でも画期的な場面でした。時代の大きな転期を実感しましたが、当時の公明党の最高幹部が断固たる決意で、判断を過たなかったことが深く印象に残っています。

●四国から神奈川へ船で、奄美から女子部員が立川へ

 翌1980年(昭和55年)は、創価学会創立50周年でした。この年の初めに2つの感動的な出来事があったことが、この章の半ばに出てきます。一つは、四国の同志800人が船で横浜港にやってきたことです。新しい年の出発に際し、考えぬいた四国の幹部は、先生の行動が制約されているのなら自分たちの方からお会いしに行こうと、大型客船「さんふらわ7」号をチャーターして1月13日に出発。翌日に到着しました。その時に、伸一は四国の中心幹部に「本当に、船でやって来るとはね。面白いじゃないか。それだけでも皆が新たな気持ちになる、何事につけても、そうした工夫が大事だよ。広宣流布は智慧の勝負なんだ」と語っています。(196-215頁)

 また、一ヶ月後の2月17日には、鹿児島県の奄美大島地域本部の86人の女子部員が伸一のいた立川文化会館に飛行機を乗り継ぎやってきました。伸一は「はるばると奄美の乙女の集いける 此の日の歴史 諸天も讃えむ」と和歌を詠み、「奄美から二十一世紀の広布の新風を起こしてください」と激励していました。(226頁)

 この当時、山本会長を求める会員のあつい思いは激しく燃え上がりました。2つの例は代表的なものです。そうした動きを様々に聞いて、東京という中心にいた自分はただただ凄いなあと感心しているだけでした。

●会長辞任から1年、「恩師の23回忌に思う」

 この年の4月2日は、恩師戸田先生の23回忌にあたっていました。伸一は聖教新聞に一文を寄稿します。そのなかで、「広宣流布の前進を忘失したならば、宗開両祖の御精神に背くことになるのを深く恐れるのであります」「勇んで広宣流布のため、民衆救済の前進を開始してまいろうではありませんか」と述べたほか、「大聖人の仏法の実践は、後退を許さぬ生涯の旅路である」と記されていました。さらに、名誉会長として、インタナショナル会長として、同志のために、平和と文化のために、一段と力を尽くしていくことを宣言したのである」(235頁)とも。

 愚鈍な弟子であった私など、先生が名誉会長として、さらに一層元気で指揮をとって貰えるに違いないと、単純に喜んでいたように思い出します。会長のさらに上の存在としての名誉会長になられたんだから、今までにも増して自由に戦いを展開して頂けるものと、呑気に考えていました。

 しかし、「師弟離間の工作が進み、『先生!』と呼ぶことさえ許されないなか、創価の城を守るために、われに『師匠あり』と、勇気の歌声を響かせた丈夫の壮年・男子の代表もいた」との記述を読み、改めて当時の先生を取り巻く厳しい環境に思いが至ります。恥ずかしい限りです。(2023-5-11)

 

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