【5】『グッドバイ、アメリカ』って映画作って━━『グッドモーニング、ベトナム』を観て/8-9

 ベトナム戦争を描いた数多くの映画の中で、私はこの作品に今のところ最も好感を持っている。「平和」を愛する人々にとって、戦争映画はいかなるものも残酷に違いなく、ひとの身体が壊れゆくシーンには眼をそむけたくなるはず。しかし、この映画はひとときそれを忘れさせる何かしらの魅力がある。恐らくそれは欺瞞なのだろうが、〝身近な人間臭さ〟には負けてしまう。もちろんやがて悲しい結末が待ち受けているものの、それなりに余韻は残って印象深い。戦争映画嫌いの人にもお勧めだ◆戦争遂行のために兵士の意気を高揚させるラジオ放送。この映画を成功させたのは、ロビン・ウイリアムス演じる米軍ベトナム放送のDJ役の喋りのうまさとロックの軽快さに尽きよう。言葉と音楽の連弾は、あたかも波打ちぎわの潮騒のなかで聞く蝉しぐれのようで、煩いが妙に気持ちいい。加えて、ベトナム人の側からも描いて見せているという、未熟ながらも視点の平等性に惹かれた。ベトナム人をまるで犬畜生としてしか扱わない米映画の中で、これは「ベトコン」の側からの見方も垣間見られ、熱帯夜に吹く一陣の風の赴きがある。その前段として、アオザイが似合うとてもチャーミングなベトナム人女性(チンタラ・スカバトナ)とその兄という役回りを持ってきたのは興味をそそられた。主人公が恋心を抱くのはご愛嬌だが、随所にユーモアを取り入れ惹きつける◆声を聞くだけだった人気DJに、トラックなどで移動途上の兵たちが町なかで出会い、やりとりを交わす場面がとても人間的で面白かったが、それ以上に、ベトナム人たちのための英語教室の授業風景(DJが教師に潜り込む)が和ませた。実際にこういうことがあったとは想像し難いが、束の間の笑いが楽しい。かねて世界一粘り強い兵隊を擁するのはベトナムで、可憐で清楚な印象で魅惑するのはかの国の女性たちだと私は思い込んでいる。この映画で、前者はともかく、後者は紛れもなくその意を強くさせた爽やかなヒロインの登場だった。ほかの映画での彼女の出演を見てみたい◆韓国は別格として、イラン、インドが映画新興国として力を入れているのに比し、ベトナム映画についてはほとんどその実態が見えてこない。しかし、徐々に多様で個性的な映画が作られつつあるという。ベトナムの側から見た「戦争」がどんなものになるのか。先日、NHKの映像の世紀「バタフライ・エフェクト」で観た(5-29放映)、米のマクナマラ元国防長官との会見場面でのヴォー・グエン・ザップ将軍の発言(真の自立を勝ち取るまで戦争は続けるつもりだった)は、この国の人びとの途方もない奥深さへの興味をそそってやまないものだった。ベトナム人によるその映画の題名はさしづめ『グッドバイ,アメリカ』がいいかも。その映画ができるまで、米国は戦争の非に気づかないのかもしれない。(2023-8-9)

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