【19】史上最大のエンタメ誕生とその裏側━━『ローマの休日』と『トランボ』を観て/1-5

 映画『ローマの休日』は、過去に観た映画の中で、最もわくわくしたものだ、と思う人は多いだろう。王女が束の間自由の身になってローマの町中を〝冒険する〟設定が何より魅力的である。1953年公開。恐らく既に観た多くの人にとっては、ここでの記述にあまり興味はわかないはず。そういう人たちには、この映画誕生の裏舞台を描いた一本『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(以下『トランボ』と略)をお勧めしたい。これはこれでまた非常に考えさせられるいい作品だから。そして、未だ『ローマの休日』を観ぬ人たちには、早く観るようにお勧めしたい◆ヨーロッパ最古の王室のアン王女(オードリー・ヘプバーン)が、親善旅行の流れで、イタリア・ローマにやってくる。日常の物足りなさからひとり街中に飛び出す。未知の経験あれこれの後に、疲れてベンチに寝てしまう。そこへ偶然でくわした新聞記者ジョー(グレゴリー・ペック)が自分の住まいに連れ帰るのだが、その身分を知り密かに大スクープを、と目論む。その流れで起こるさまざまなエピソードが描かれる。ここで、この映画を観たひとたちが話題にする好みのシーンを語り合うと、どうなるか。私の場合は、一番面白かったのは、後半での大乱闘の場面。はちゃめちゃの連続。映画でこんなに笑ったものはない。第二に、ドキッとしたのはライオン像の口に新聞記者が手を入れるシーン。食いちぎられたと、ウソとわかっていてもたじろぐ。あの場面はアドリブだったという。彼女は知らされてなく、自然な形だった◆全てが終わって、王女が会見の際に記者たちに囲まれた場面がいいという向きもあろう。王女と記者が何も言わずに見つめ合う場面。ここは見事な相互の想いが行き交う、忘れ難い名場面だ。もちろん人によって受け止め方は違う。市内を2人がスクーターで乗り回す場面がいいとか、王女が髪の毛をカットするところとか、隠しカメラ付きライターの登場が面白かったといったように。それを挙げあって、楽しむのも面白いと思われる。また、昨今「4Kレストア版」といった新しい映像による再放送がなされているが、その際に細部の場面で時計の針の動きをよく見ると、瞬時に針が回る。カメラの使い方を追うというのも一興かもしれない◆さて、もう一本の方は、この映画の原案を書いた人物が、戦後アメリカに吹き荒れた「赤狩り」の犠牲者だったことだ。共産主義者を告発し、映画の世界から追い出そうとした〝思想的排除の嵐〟を描いた『トランボ』は、時代の怖さを思い知らされる。と同時にその恐怖の中で、断固として初志を貫き通し、転向することのなかった脚本家の強さに心底感動する。その背後に家族の逞しさ、とりわけ最後の場面は忘れえぬ感動である。ダルトン・トランボが脚本をお風呂に入ってタバコを吸いながら描く場面とか、留置場に入るに際して、素っ裸で検査される場面は、わかっていながらそこまでやるか、と妙に感心した。この映画と並んで年末のテレビで観たドキュメンタリー『映像の世紀 バタフライエフェクト』も興味深いものだった。「夢と狂気渦巻く百年のハリウッド」で、その実像が描かれていたが、この「トランボ」についてももちろん取り上げていた。私的にはその昔興奮して観たカーク・ダグラスの『スパルタカス』も脚本は同じ人物だったことを知って驚いたしだいである。(2024-1-5)

 

 

 

 

 

 

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