【5】日蓮仏法の真髄としての「誓願」ー『新・人間革命』第1巻「開拓者」から考える/5-6

●初のブラジル訪問での質問会

ニューヨークから空路13時間。山本伸一たち一行はブラジル・サンパウロに到着します。昭和35年10月11日深夜のこと。体調を崩し疲労の極みにあった伸一ですが、機内でブラジルに海外初の支部を結成しようとの構想を、随行の十条潔に語ります。最悪の体調であり、激しく揺れ動く機中にも拘らず、ブラジル広布への強い思いをめぐらす、伸一の執念に、十条は驚くのです。

ブラジルについては、この後、6年後に再訪問された様子が第11巻に描かれていきます。また、14年後の昭和49年には、訪問が途中で叶わず、急遽行先が変更されるという劇的な出来事が起きますが、それは第19巻に登場します。そして最後の第30巻下「誓願」の章にも。数多い伸一の海外広布旅でも強く深く印象に残る国の一つです。

それは、明治から昭和への日本の歴史の流れ中で、この地が海外移住の主流の位置を占めてきて、数多い日本人が住んでいたことと無縁ではないと思われます。「開拓者」の章では、ブラジル移民の経験した「流浪の民」の由縁が簡潔に語られ、胸疼く想いに誘われます。その中で日蓮仏法に目覚め、立ち上がったばかりの人たちへの伸一の激励行が、読むものの心を激しく揺さぶるのです。

●「誓願」と本来の祈りについて

伸一はこの地での座談会で多くの時間を質問会に当てていきます。それは「農業移住者としてブラジルに渡り、柱と頼む幹部も、相談相手もなく、必死で活路を見出そうとしている友に、適切な指導と励ましの手を差し伸べたかった」からだと述べられています。292頁から300頁にわたる、この質問会でのやりとりは圧巻ですが、とりわけ、「誓願」について語られたくだりが強く心に残ります。

「仏法というのは、最高の道理なんです。ゆえに、信心の強盛さは、人一倍、研究し、工夫し、努力する姿となって表れなければなりません。そして、その挑戦のエネルギーを沸き出させる源泉が真剣な唱題です。それも〝誓願〟の唱題でなければならない」

「〝誓願〟というのは、自ら誓いを立てて、願っていくことです。祈りといっても、自らの努力を怠り、ただ、棚からボタモチが落ちてくることを願うような祈りもあります。それで良しとする宗教なら、人間をだめにしてしまう宗教です。日蓮仏法の祈りは、本来、〝誓願〟の唱題なんです。その〝誓願〟の根本は広宣流布です。つまり、〝私はこのブラジルの広宣流布をしてまいります。そのために、仕事でも必ず見事な実証を示してまいります。どうか、最大の力を発揮できるようにしてください〟という決意の唱題です。これが私たちの本来の祈りです」

法華経の如来神力品第21では、地涌の菩薩が滅後の弘通を勧める釈尊に応えて、成仏の肝要の法を人々に教え広めていくことを誓願し、釈尊から滅後悪世の弘通を託されています。日蓮大聖人は、この誓願を自らのものとして、命懸けで貫くとの決意で、地涌の菩薩の上首(中心的リーダー)である上行菩薩の御自覚に立たれたのです。また、創価学会の三代の会長は、この大聖人の直弟子との自覚のもと、広宣流布という地涌の菩薩の誓願を自らの使命として闘ってこられたのです。

このサンパウロでの質問会における山本伸一の説明に、唱題、祈りという言葉の上に「本来の」と冠せられていることに注目せざるを得ません。つまり、本来のものではない、似て非なる祈りや唱題が横行しているということでしょう。尤も、それであっても、祈りは叶う、それくらい唱題そのものの持つ力は凄いということでもあります。この辺り、私は杓子定規にではなく、柔軟かつ身勝手に解釈することにしています。このいい加減さが私自身の根本的な欠陥だろうと分かりつつ。

●未だ見ぬ国・ブラジルへの熱い思い

私はブラジルには行ったことはありませんが、一昨年の参議院選挙の際に、思わぬ関係が出来ました。公明党の候補(兵庫県選挙区)としてブラジル駐在日本大使館の一等書記官だった高橋光男君が立候補したからです。小学校時代の私の友人・三野哲治君(元住友ゴム会長)が日伯協会の理事長(当時)をしていたことを思い出し、二人を繋ぐ役割を果たしました。

明治41年4月28日に、初めて日本からブラジルに向かった笠戸丸が神戸港から旅立ったことは、「開拓者」の281頁にも書かれています。私は、神戸市中央区の高台にある「海外移住と文化の交流センター」を訪問した際に、事務方のご案内のもと、上階から窓越しに海原を見やりながら、この神戸の地から移民に旅立った人々の心中に遠く思いを馳せました。明治150年の歴史の流れの中で、ブラジル広布を夢見た人々の苦闘に、頭(こうべ)をたれざるを得ません。(2021-5-6)

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