【49】地域おこしの要諦ー小説『新・人間革命』第12巻「愛郷」の章から考える/1-8

●松代での担当幹部への厳しい心構え

  地震大国・日本ではどこでも、いつ何時、強い大地の揺れに襲われるか知れません。長野県松代は、1967年(昭和42年)の時点で、その2年ほど前から、群発地震の恐怖に苛まれていました。欧米の旅から帰国した山本伸一は、5月末から6月にかけて関西の同志の激励に走った後、6月23日に松代を訪れます。ここでは、その訪問に先立つ経緯が述べられます。その中で、同地を担当する幹部への伸一の指導が強く興味を惹きます。(113-118頁)

    昭和40年11月11日。松代に行く前にやってきた黒木昭に対して、伸一は「幹部が現地に行き、会合に出たり、メンバーと会うのは、ただ情報を伝えるためではない。勘違いされては困る。みんなを触発し、一念を変え、決意を固めさせるために行くんです」と。ーこれを聞いて、黒木は緊張と戸惑いの顔を見せます。それに対して、「では、どうすれば皆の一念を変えることができるのか」として、さらにこう述べています。

「それには、まず、中心者である君自身が、自分の手で、この松代に広布の一大拠点を築いてみせると、心の底から決意することだ」と強調し、「必死さがなければ、広布の新しい歴史など、開けるわけがない」「遊び半分の人間に何ができるというのだ」「幹部が、口先だけの演技じみた言動で、同志が動くなどと思っているなら、甚だしい思い上がりだ」と続きます。これに、黒木は「私自身が、全力で戦い、松代から日本を立て直すつもりで頑張り抜きます!」と、決意を込めて応えました。伸一は黒木の肩に手をかけ、「そうだその意気で戦ってくるんだ。松代の同志には、強い愛郷心と、深く大きな使命がある。必ず、変毒為薬することができる。一人ひとりが住民の依怙依託となって、地域を守り抜いていくんだ」と励ますのです。

 ここには、地震による危機的状況に陥った地域をどう励まし、立ち上がらせるかについての基本的な取り組み姿勢が余す所なく述べられています。この30年でも阪神淡路で、新潟で、熊本で、岩手、宮城、福島などで連続して続く大地震災害ーそのつど、この原理を思い起こして、多くの幹部が現場に赴き、戦いました。

 黒木昭のモデル黒柳明さんと初めて私が会ったのは、この場面のほぼ2年後。以後、凄まじいまでの迫力での参議院予算委での質疑や、ユーモア溢れる語り口調での応援演説、信じがたいテレビのバラエティ番組出演などを見て、そのつど驚き、感心し、呆れてもきました。同一人物であるとはとても思い難い立居振る舞いでした。しかし、共通していると見えるのはいつも〝この人独自の一途さ〟がうかがえることでした。こんな兄弟子と同時代を生きてきたことを誇りに思いつつ、今も時々電話などで言葉を交わしています。

●観光地として見事に飛翔した飛騨高山の戦い

  小諸、松代への訪問を経て、長野県での指導旅が、総合本部長・赤石雪夫への「逃げるんですか!」との一言、カメラマン矢車武史の大失敗への激励など、印象的なエピソードが盛り込まれて、描かれていきます。(119~158頁)  そして、舞台は岐阜県高山市へ。ここでは飛騨の歴史が語られた後、総支部長・土畑良蔵や10歳の少女・丸山圭子の体験や交流が描かれて胸を撃ちます。(159~195頁)  この中で、私が注目したいのは、飛騨高山の地域おこしについての伸一の考察と、現実の展開です。

 飛騨高山は今でこそ日本有数の観光地としての地位をしめていますが、伸一が初訪問する前年の昭和41年には20万人にも満たない観光客数でした。それが、43年には2倍になり、「74年(同49年)には約200万人となり」ました。今はご多分に漏れずコロナ禍で苦境に喘いでいますが、昭和40年代後半の激増ぶりは本当に凄い数字です。

 この辺りの背景について、「こうした繁栄の陰には、地域の発展を祈り、我が使命としてきた、多くの同志の知恵と献身が光っている」とされ、「地域の振興に尽力してきた学会員も少なくない」とあります。そして、「村(町)おこしや地域の活性化は、どこでも切実な問題であるが、特に過疎の村や山間の地などにとっては、存亡をかけた大テーマであろう。だが、住民が、その地に失望し、あきらめをいだいている限り、地域の繁栄はありえない。地域を活性化する源泉は、住民一人ひとりの愛郷の心であり、自らが地域建設の主体者であるとの自覚にある」と結論づけられています。

 このくだりを読んで直ちに兵庫県各地の過疎地域が思い浮かびます。なかでも但馬の美方郡村岡町で頑張る元町議の姿です。なかなか実を結ばない戦いに、時にあきらめに近い思いが湧き出てきたようですが、今は思い直して懸命に考えられるだけの全てを結集して地域おこしに取り組んでいます。私もまずは彼自身への激励に全力を注いでいます。(2022-1-8)

 

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