【52】国境を超えた友情ー小説『新・人間革命』第13巻「金の橋」の章から考える/1-26

●学生部総会(1968-9-8)での歴史的「中国提言」に至る背景

 戸田先生と池田先生の師弟の絆はたとえようもなく強固ですが、世界の平和実現に向けての国境を超えた友情を育む姿勢にも見事なまでに反映されています。1968年(昭和43年)9月8日に開かれた学生部総会での中国問題での提言はまさに、戸田先生の原水爆禁止宣言に匹敵する極めて重要な内容でした。この章ではその講演に至るまでの日中関係の経緯と後継の学生部へのあつい思いとが協和音を奏でながら展開されます。(8-51頁)

   伸一の中国への思いは、戸田から受けた個人授業に全て起因します。「伸一は、この授業を通して、中国の気宇壮大な理想と、豊かなる精神性に、深く、強く、魅了されていった」ことに始まり、「歴史を正しく認識し、アジアの人びとが受けた、痛み、苦しみを知ることです。その思いを、人びとの心を、理解することです」との発言に尽きます。

 ここでは、日本の政界の松村謙三、経済界の高碕達之助、文学界の有吉佐和子の3人がいかに中国との関係において、献身的な努力をしたかが丁寧に語られます。これを通じ、のちに周恩来首相と伸一との国境を超えた友情が育まれるに至る背景が明確になります。この当時、大学3年生だった私など到底知り得なかったことばかりですが、大きな構想のもとでの対中関係の構築への労作業を知って、深い感銘を受けました。この章には、これからの日中関係を考える上での重要な情報が満載されていると思うのです。

    ●大学別講義から大学会の結成へ、「後継育成」の思い

 伸一が学生部総会の場で、日中国交回復に向けての提言を行う決断をしたのは、ひとえに後継の人材群を育てるためでした。「日中友好の永遠なる『金の橋』を築き上げるという大業は、決して一代限りではできない」し、「世紀を超えた、長く遠い道のりである限り、自分と同じ心で、あとを受け継ぐ人がいなければ、成就はありえない」との思いだったのです。

 だからこそ、この頃から大学別講義が行われ、大学会の結成が相次ぎました。私も岡安博司副理事長による『撰時抄』講義を数回にわたって受けました。また、4月26日に結成された慶大会に馳せ参じました。肺結核闘病中だった私はそこで、初めて池田先生の謦咳に接し、百万遍の唱題で必ず治るとの根源的指導と共に、温かいものを食べ、早めに寝ることなど、生活上の細かなアドバイスまで受けることができたのです。未熟な信心だった私は、後で考えれば無謀にも、恐れを知らぬ直裁さで大師匠にぶつかっていきました。

 すべての大学会の結成式に出席した伸一は「一人ひとりのメンバーを、我が生命に刻み付けようと必死であった」し、「それぞれの家庭の状況にも、丹念に耳を傾けた。彼は、共に同志として、皆の生涯を見守っていく、強き決意であった」と記されています。私自身まさにそう書かれている通り、生命の底からの激励を勿体なくも受けられたのです。

●歴史的提言の持つ意味

 9月8日の総会で、伸一は内に大学紛争、外にプラハ事件といった荒れ狂う環境にいた学生たちに、原因としての「世代間断絶」「生命哲学の欠如」といった問題から説き起こします。そして、中国との国交回復を実現するための3項目の提言(①国交正常化②国連加盟③経済・文化交流)など、後の国際政治に少なくない影響を与えた「77分の講演」を展開していきました。ここでは、その内容は勿論、その後の内外への影響にまで触れられ、さながら日中裏面史の赴きがあります。(52-85頁)

  当時、慶大で中国論をかじりかけていた私は、この講演を聞き「中国問題」を人生のテーマにしようと深く決意するに至りました。後に公明新聞の記者になり、政治家になってからもこの問題を追い続けました。その間、東京外大(慶大講師)から秋田国際教養大学長になられた中国問題の権威・中嶋嶺雄先生との交流に恵まれたことは大いなる幸運でした。また、記者時代から秘書を経て政治家として支えた市川雄一元書記長との様々な切磋琢磨からも、多大な彩りを得られたのです。

 それから54年。中国の人口は7億から14億人へと倍増しました。周恩来のような指導者は見当たりません。習近平のもと建国100年を迎える2049年へとひた走る中国と、未だ半独立の状況を脱し得ていない日本。両国を取り巻く状況は様変わりしました。明治維新から敗戦そしてコロナ禍と、二つの「77年のサイクル」を経た日本は、まさに正念場です。

 あの時の「私の中国観に対しては種々の議論があるでしょう。あとは賢明な諸君の判断に一切任せます」と、「(日中間に金の橋を築く大業は)一代限りでなく、世紀を超えた長く遠い道のり」だとの発言がわが耳にこだまします。政権与党の一翼を担う公明党よ、バランサーの役割を忘れるな、と。(2022-1-26)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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