【64】人類の今を予測した語らいー『小説・新人間革命』第16巻「対話」の章から考える/4-6

●トインビーとの対談の背景にあるもの

 この小説のほぼ半分に位置する第16巻。いよいよアーノルド・J・トインビー博士の登場です。『歴史の研究』で有名な20世紀を代表する英国の歴史学者。1972年(昭和47年)4月末に、伸一はこの人物との対談を最大の目的にして、約1ヶ月の欧米への旅にでます。この章では、まず対談の相手である同博士との関係について語られていきます。(120-226頁)

   伸一はトインビーの著作が翻訳・出版されるたびに直ちに買い求めて精読。その挑戦に刮目しました。

【まず、その学説が、従来の西欧中心型の歴史観から脱却している点に驚きを覚えた。(中略)  西欧人として無意識のうちに芽生えてしまう、偏見や優越感と葛藤しながら、虐げられた民衆の「声なき声」に耳を傾け、執筆を続けたことに、伸一は感嘆したのである】

 戦争を始めとする人類の苦悩に真正面から挑み、歴史を通して未来の平和と繁栄と幸福の方途を探り出すことに、全身全霊を傾ける同博士に伸一は強い共感を覚えたのです。そこへ、1969年(昭和44年)秋に同博士から、一通の手紙が届きます。そこには創価学会と伸一に寄せる思いが率直につづられていました。

 傑出した人物は相互に響きあうものを持つ、といいますが、一通の手紙をもとに、希代の歴史家と宗教指導者の交流が始まります。年齢の差ほぼ40。人類の未来を見据えての東西の知性の語らいを前に、学び、聞き、考え、そして動くことの重要性を心底から感じます。対談から50年。私たちも少しでも挑戦せねば、との思いがしきりに募ってきます。

●対談の3つのポイントめぐって

 対談にあたって、伸一は3つのテーマを考えました。第一に「人間とは何か」という問題。人間を多面的にとらえたうえで、「いかに人生生きるべきか」との根本命題に迫るものです。第二に、「世界の平和を実現する方途について」。人類の愚かな歴史を断ち切り、地球を平和的に統合する方法を見いだす試みです。第三に、「生命の根源に迫る」対話。縦に生命の永遠を、横に宇宙を論じる宗教・哲学論です。

 この章を改めて読むに際して、私は新たな思いでおふたりの対談を全集第3巻の最初の頁から繰りました。冒頭は人間の動物的側面、「性」についてです。上下2段650頁を超える大著がこのテーマから始まることに小さな驚きを覚えました。この対談集が『21世紀への対話』との題名で世に問われたのは、1975年(昭和50年)の春のこと。私は30歳でした。関心の高いテーマが満載されたこの本に知的興奮を覚えたものです。どこまで、読み込めたか。どれだけ身につけることができたか。「光陰矢の如し」を感じるだけ、焦りのみ多いことは抗えません。

 私が最も深く惹きつけられたところは、対談最終日の5月19日の最後の最後に、伸一が博士に「山本伸一個人に、何か忠告があれば、お願いします」と述べた箇所です。博士は「〝行動の人〟に対して〝机上の学者〟がアドバイスするなど、おこがましいことです」と、述べたうえで次のように語ります。(213頁)

 「ミスター・ヤマモトと私とは、人間がいかに生きるべきか、見解が一致した。あとは、あなたが主張された中道こそ、今後、あなたが歩むべき道なのです」一言一言に魂の重みがあった。伸一は、〝私の分まで行動してほしい〟と、博士からバトンを託されたような思いにかられた。

 この対談で「中道」をいかに伸一が強調したかが分かり、ついほっこりした思いになりました。仏教における「中道」と、ここから敷衍される政治における「中道」と。一段とその必要性が高まっています。既に幾度か触れてきましたが、政治の世界での公明党の中道主義貫徹へ、私はいま強い関心を持ち、見守っているところです。

●現在を見抜いたような「権力悪」への懸念

 今現在、世界はロシアによるウクライナ戦争の只中にあります。21世紀に入った直後にアメリカでの同時多発テロに端を発し、対テロ戦争が始まりました。また、20世紀末の湾岸戦争から、イラク戦争、アフガン戦争など相次ぐ戦争の惨禍は枚挙にいとまがありません。しかし、今度のロシアの蛮行はいささか赴きをことにします。一度はソ連の崩壊、民主ロシアの誕生との流れで、決着がついたと、思い込んでいたものが根底から覆ってしまったからです。

 戦争が語られた「対話」では、「世界独裁制の出現」を博士は予測しています。それに対して池田先生は、「きわめて大胆なご意見」とされる一方、「人類は世界的な独裁体制を出現させるに至るかもしれません」(池田大作全集第3巻402頁)と危惧を表明。人類の未来における「平和と幸福」への努力に、「最後まで残るのは権力悪の問題」だと喝破されています。

 プーチンの「権力悪」にどう立ち向かうか。人類は今まさに正念場を迎えています。(2022-4-7)

 

 

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