【69】完全燃焼こそ蘇生の源泉ー小説『新・人間革命』第17巻「緑野」の章から考える/5-7

●深夜の6分間の停車

 東京都内各地での記念撮影会を終えた伸一は、1973年(昭和48年)5月に欧州に旅立ち、帰国後の6月5日の福井を皮切りに、岐阜、群馬、函館と次々に訪れます。それぞれ各地で深い絆を会員と結ぶ姿が描かれていきます。まず、福井では13年前の1960年2月の忘れられぬ出来事が語られます。(336-341頁)

 それは、京都から金沢に向かう列車の敦賀駅での6分間の停車時間に起きたことでした。伸一が乗った列車が午前2時半頃に着くと知った50人ほどの人々が、一目お会いしたいとプラットフォームに集まってきていたことが発端でした。みんなの気持ちは痛いほどわかるものの、周囲に迷惑をかけ顰蹙を買うようなことはしてはならないとの判断から、伸一は車内から外に出ず、代わりに同行していた十条が皆に会い、その思いを伝えました。この時の自身の対応に「やはり、一目でも会うべきでなかったか‥‥」と、悔やむ思いを持ちます。

 【すべての責任を担って、「最善の道」をめざそうとすればするほど、反省は尽きなかった。だが、そのなかで人間は磨かれ、自己完成への歩みを運ぶことができるのだ。『悔恨がないのは、前進がないからである』とは、トルストイの達観である。伸一は、以後、福井を訪問するたびに、『敦賀の駅にきてくれた人』のことを語り、感謝の意を表してきたのである。】

 私は年中反省することが多いのですが、その都度、宮本武蔵の「我事において後悔せず」との言葉を思いだし、その失敗、逡巡を忘れようとします。しかし、ここでは悔恨を前進の糧にしようとする姿が窺え、ほっとします。

●身体のハンディと幸福感

 6月7日は岐阜へ。文化祭での「郡上一揆」を題材にした、創作劇『一人立つ』で主人公に扮した目の不自由な青年・長松正義のことが語られていきます。(359-369頁)

   【入会前は著しく乏しい視力で生きねばならないことを嘆き、自らの宿命を呪う毎日であった。しかし、信心に励むなかで長松は、そのハンディをかかえながら、最高の仕事をし、幸福になることに、自分の使命があることを自覚したのである。ヒルティは断言する「試練は、将来われわれの上に咲き出ようとする、新しいまことの幸福の前ぶれである。】(367頁)

    私の入会前の問題意識は、「身体的ハンディと人生の絶対的不平等」でした。しかし、入会後に、この長松のような問題を抱えた同志を幾人も見てきました。「自由グループ」「自在会」などと命名された障がいを持った人たちです。彼らと交流するたびに、強い刺激を受けました。人間は一念のありかしだいで、自由にも、不自由にもなることに、発奮したものです。

●完全燃焼の大事さ

   聖教新聞岐阜支局での伸一と記者、通信員との語らいでの二つの場面が強く印象に残ります。一つはどうやって睡眠時間を確保するか。もう一つは、言論の大闘士について。それぞれ次のように述べています。

 前者は、「それには一瞬一瞬、自分を完全燃焼させ、効率的にやるべきことを成し遂げていくことです。人間は一日のうちで、ボーッとしていたり、身の入らぬ仕事をしている時間が、結構多いものなんです。そうではなく、『臨終只今』の思いで、素早く、全力投球で事にあたっていくんです」(375頁)

   先日、兵庫に応援に来てくれた尊敬する大幹部と懇談した際に、優れた芸術家は健康で長生きする人が多いということで、意見が一致しました。彼の発言の背景にはこの伸一の発言があると見られました。私は「ものごとに熱中して、没我の状態に長くあることが人生を健康で豊かなものにする」との持論を述べたものです。

 後者は、「広宣流布は言論戦なんだから、青年は言論の力をつけなくてはならない。そのためには、優れた論理展開の能力を培うことも大事だが、句や歌で、的確に心を表現する力も必要です。」(379頁)

  長文と短文と、そして論理展開と感情表現と。文章力修行に王道はありません。努力、努力また努力なんでしょう。熱中して自我を忘れるほど完全燃焼のときを持つことが人間を甦らせるとは、不思議なことです。

●音楽は世界の共通語

 以上のことは、次の群馬でも強調されます。伸一は、群馬交響楽団のメンバーとの懇談で以下のように発言しています。

 「それぞれの立場で人間文化の花を咲かせ、社会に貢献していくことが、仏法者の使命なんです。そして、そのためには常に自分の魂を燃え上がらせ、〝さあ、今日も頑張るぞ!〟という、満々たる生命力をたたえていかなければならない。その源泉が題目です」(396頁)

 「音楽は人間と人間の心を結ぶ、世界の共通語」「歓喜の共鳴音」と、続きます。先日『今こそ平和の響を〜ウクライナ侵攻と芸術家たちの闘い』をTVで観ました。「戦争」で沈む世界に、音楽の重要性を感じました。(2022-5-7一部修正)

 

 

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