Monthly Archives: 7月 2022

【78】世界平和に「中国」から動く➖小説『新・人間革命』第20巻「友誼の道」から考える/7-28

★人のために何をするかー日中青年交流

 この20巻は、中国とソ連(現ロシア)への伸一の初の訪問(中国は2度めも)の様子、そして国連事務総長、米国務長官らとの対談を描いたものです。1974年(昭和49年)の5月、9月、12月における3度の試み、米国訪問には、〝中ソ対決〟や混迷続く中東問題の解決など、世界平和実現への伸一のあつい思いと強い情熱がありました。「新しい時代の扉は、待っていては開きはしない」で始まる「友誼の道」の章は、5月30日からの第一次訪中における中国が舞台です。伸一の17日間は、青年との交流から始まります。

 中国の旅の第一歩は深圳。中日友好協会の2人の青年の語らいから始まります。その後も幼稚園や小学校で子どもたちとの接触が展開していきます。【子どもと接するということは、未来と接することだ。子どもを育てるということは未来を育てるということだ】(36頁)とあるように、子どもとの交流場面が胸をうちます。中でも、案内してくれた少女に、伸一が将来どんな仕事に就きたいかと尋ねると、「人民が望むなら、どんな仕事でもします」と、答えます。それを伸一は、【人民に奉仕することの大切さを徹底して教えているのであろう。人のために何をするか➖人や社会への貢献の行動の大切さを教えてこそ、人間教育がなされるといえよう】と。(52頁)

 かつて私は創価学会第一次青年訪中団の一員として中国を訪れました。青年同士の友好の絆を創れとの師の思いを受けて実現したものでした。北京、石家荘などで、〝友誼の道〟を歩き、多くの青年と交流を深めました。「人のために何をするか」を教えられた者たち同士の打合いが、〝運命の日中両国〟を超えて展開されたのです。あれから45年余。あの時の彼らは今どうしていることか。会うことができたらとの思いが募ります。

 ★核廃絶に向けての絶えざる思いと行動

    中日友好協会の代表たちとの二回の座談会の模様が語られます。その中で最も注目されるのは、核をめぐってのやりとりです。核廃絶への流れを断じて作るということに必死の伸一と、核は持つがあくまで防衛的なものとする中国側。意見は異なりました。「しかし、核の保有、非保有にかかわらず、すべての国が平等の立場で、一堂に会して、核兵器全廃のために会議を開く」という点については完全な同意が得られました。友好ムードの中に緊張を孕んだ対話から伝わってくる熱意はまさに圧巻です。

 つい先ごろ、池田先生は8月1日に開かれる、核兵器不拡散条約(NPT )再検討会議に寄せて、「核兵器の先制不使用」の誓約などを求める緊急提言を発表されました。それに呼応し、広島と長崎で、創価学会青年部が被爆証言会を開催。核なき世界へ誓いを新たにし、〝ヒロシマ〟〝ナガサキ〟の心を学ぶ集いとしました。あの惨劇から77年。ありとあらゆる場面で、核廃絶を呼びかけ、具体的闘いを続ける池田先生と創価学会。そのあつき心は、今から48年前の北京での日中の座談会でも。それからも、今も変わらず続いています。

 核廃絶の理想実現に向けて、広島出身の総理大臣・岸田文雄氏の発言、行動が注目されるところです。これまでの池田先生の提言がどう生かされるか、しっかり見守りたいと思います。

★トインビー博士の大胆な中国観

    中国を離れる最終日。この間ずっと付き添ってくれた2人の青年とも別れる時が来ました。〝この友人たちのためにも、中ソの戦争は絶対に回避しなければならない。さあ、次はソ連だ!〟➖こう決意を固める伸一の胸に去来したのは、トインビー博士のことでした。訪中の直前にも喜びの声を寄せてくれ、励ましてくれた同博士こそ、伸一の大いなる同志だったといえます。

    今年は、トインビー博士と池田先生との対談から50年です。あの対談を思い起こし、胸に刻む作業をしている人は少なくないと思います。お二人の『21世紀への対話』の第二部第4章「中国と世界」は極めて示唆に富み、考えさせられます。博士が未来に起きる可能性として、「全世界が中国によって支配され、植民地化されるかもしれない」と大胆に予測。これは今、そこはかとなく、真実味を増してきている感がします。一方、池田先生は、これからの世界の統合の方向は、中央集権的な生き方でなく、各国が平等の立場と資格で話し合う連合方式ではないかとし、ECが見本であるとの見通しを述べられています。

 ECの後継であるEUが何かと難題を抱えている現在、先生の予想は困難な状況下にあります。私は、先生の見立てに希望的理想主義を感じ、トインビー博士の予測にリアルな悲観的現実主義を見てしまいます。中長期的には博士の方向に世界は進むかもしれません。しかし、幾度かの変遷を経てでも、最後には池田先生の見方に、大逆転の末に落ち着かせねばと、しきりに思います。(2022-7-28)

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【77】一切の根源は人間生命➖小説『新・人間革命』第19巻「宝塔」の章から考える/7-20

●本尊とは何かについての考察

 日蓮大聖人はこの世に何を広めようとされたのかー1974年(昭和49年)4月28日の立宗宣言の日に、伸一は北陸広布20周年の記念の集い(金沢市)に出席し、このテーマに触れていきました。「(それは)『本尊』であります」と、単刀直入に述べられた後、その内容についてぐいぐいと本質に迫る考察がなされていくのです。

 「それは、『御本尊七箇相承』に『汝等が身を以って本尊と為す可し』(富士宗学要集』第一巻)とある通り、あえて誤解を恐れずに申し上げれば、総じては『人間の生命をもって本尊とせよ』ということであります」「つまり、大聖人の仏法は『一切の根源は〝生命〟それ自体である。根本として大切にして尊敬を払っていくべきものは、まさに〝人間生命〟そのものである』という哲理であり、思想なのであります」(298頁)

  「本尊」の大事さを一般大衆に分からせるためにこそ、大聖人は一幅の曼荼羅に文字で具現化されました。かつて私はある先輩から、曼荼羅だからこそ具体的に守ることが出来ると聞き、なるほどと腑に落ちました。仮に不埒な誰かが本尊に手をかけようとしたら、身で以ってその行為を防ぎ、守ることが出来る。もし、本尊が具体的な形をとっていなかったら、護ったかどうか、その本意が分からない、と。いらい、それまでに増して、本尊を大事にすることに意を配りました。と同時に、我が身即本尊の原理から、自身の生命を護ることが本尊を守ることに通じることも、理解できるようになりました。

 この時の講演の中で、【北陸は、浄土信仰が深く根を下ろしてきた地域である。その念仏の哀音と思想は、心の〝なぐさめ〟にはなったとしても、社会を変革・創造し、未来を切り開く理念とはなりえなかった】(302頁)との記述にであいます。日本の仏教史において、法華経哲理と念仏思想の争いは壮絶を極めますが、ここにその浄土思想の本質が見事に位置付けられています。一般的には今も、文学的志向の強い念仏者と、社会変革への熱情あつき法華経信者との相剋は密かに続いています。浄土真宗の家に生まれ、後に一家全員を法華信仰に改宗させた私としては、文学と政治双方を乗り越えた境地の確立を常に意識してきました。

●沖縄での反戦出版に取り組んだ仲間たち

 ついで、テーマは青年部の反戦出版委員会の取り組みに移ります。契機となった1972年(昭和47年)11月の第35回本部総会での山本会長の講演の中身とその後の経緯が詳しく述べられていきます。人類の生存の権利を守る戦いを青年部に託し、未来へと続く人間復権運動の大河を開こうとした伸一の思いが強く伝わってきます。

 戦争体験を後世に残すこの作業は、全国各地で始まっていきますが、真っ先に立ち上がったのは沖縄青年部でした。1974年(昭和49年)6月23日の出版を目指すことになった彼らの戦いについて、盛山光洋と桜原正之の正副編纂委員長二人の生い立ちや感動的な体験から、説き起こされていきます。(306-339頁)

    この当時は高等部担当だった私は、反戦出版には全く関わらずに過ごしていました。ただ、沖縄のリーダーのモデルになった二人は今もその容姿を明確に覚えています。同じ人材育成グループのメンバーとして、いくたびか〝広布の庭〟に一緒に集った思い出があります。共に琉球大学出身者として真摯な戦いを展開してきた尊敬すべき仲間でしたが、この章に接触するまで、二人の詳しいことは知らないできました。改めて彼らのことを再認識する一方、伸一の後継への強い思いがひしひしと伝わってきます。

 特に、地涌の菩薩の生命について言及されたくだり(334-336頁)は、胸を撃たずにはおきません。ここで、上行菩薩をはじめ、無辺行、浄行、安立行の四菩薩の働きについて伸一が説明しています。この働きは、勇気をもって大衆の先頭に立つ際に発揮されるものだと、理解されます。【一人ひとりが凡夫の姿のままで、自分を輝かせ、病苦や経済苦、人間関係の悩みなど、自身のかかえる一切の苦悩を克服し、正法の功力を実証していくことができるのである。その実証を示すための宿業でもあるのだ。】と。この記述通りに、自分自身も宿命転換をするぞと決意し戦ってきました。今、70歳台後半になってもなお襲いくる魔に立ち向かっています。

 反戦出版の第二巻は広島編、第三巻は長崎編です。1985年(昭和60年)までの12年間に及ぶ青年部員たちの地道な取り組みで、全80巻、3200人を超える人々の平和への叫びをつづった〝反戦万葉集〟が完結しました。【反戦出版の完結は、終わりではなく、始まりであった。それは伸一と青年たちの、新しき平和運動の旅立ちを告げる号砲となった。】(372頁)とあります。この試みこそ、世界平和への確実な一歩だと確信します。(2022-7-19)

 

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【76】「生命の世紀」への戦いー小説『新・人間革命』第19巻「陽光」の章から考える/7-13

●海外で初めてとなったUCLAでの講演

 パナマ、ペルーから、メキシコを経て、伸一はロサンゼルスへ。1974年(昭和49年)3月28日のこと。翌日は、マリブ研修所で青年部代表や若手の通訳との懇談。「広宣流布に向けて英語の達人が何人いても足りなくなる」との発言が強く心に残ります。4月1日にはカリフォルニア・ロサンゼルス校(UCLA)で「21世紀への提言」と題する記念講演。海外の大学・学術機関での最初の講演として注目されました。

 この時の講演では、「小我」に支配されてきた文明から、無常の奥にある常住の実在、すなわち「大我」に立ち、宇宙生命と共に呼吸しながら生きる文明への転換が訴えられました。「21世紀は、人間が生命に眼を向ける『生命の世紀』にしなければ」ならないうえに、「知性的に人間であるだけでなく、エゴから脱却して、精神的、生命的にも自立し、跳躍を遂げねばならない」と強調されたのです。「欲望、煩悩に支配された現代文明の本質を、仏法という生命の視座から浮き彫りにし、人間のための文明を創造する根本哲理を明らかにした講演」でした。(220-221頁)

 ここで述べられた「大我」をトインビー博士は、宇宙の「究極の精神的実在」と表現しています。また、ある教授は「人間の未来開拓へ、根本的な道標を示した、重要な意義を持つもの」と称賛。またある学生は、「仏法は自分が生涯をかけて勉強するに値する〝人間の哲学〟だ」と感想を述べたと、触れられています。同大学のミラー副総長は前年の昭和48年に伸一が創価大学で行った「スコラ哲学と現代文明」と題する講演に深い共鳴をし、翌年のUCLA招待に繋がることになりました。その講演は、「中世の時代精神を形成したスコラ哲学に新たな光をあて、近代の出発点であるととらえた」もので、「新しい時代の開幕のために、新しい大学、新しい哲学の興隆が必要であることを訴えていた」のです。

 ここでの講演を後に聞いた私は、深い感銘を受け、21世紀を「生命の世紀」とする、己が使命に震えたつ思いを抱きました。30歳。ちょうどその頃、高校時代の友人が「中世スコラ哲学」を専門とする道に入ろうとしていたことを知り、密かに「共戦」を誓いました。それから約50年。彼は哲学者として大成しましたが、私の哲学探究は中途半端な状態。「生命の世紀」への道も難航を続け、人類の戦い未だ終わらずを実感せざるをえません。しかし、ここで挫けてはならず、さらなる戦いの持続に向かって、大いなる決意を固めるのみです。

●人間完成への7つの指標示す

  翌2日、サンタモニカのアメリカ本部で、恩師・戸田城聖先生の17回忌法要が執り行われました。海外で戸田の祥月命日の追善法要を行うのは初めてのこと。信仰の目的である「仏の境涯」に至ることを「人間革命」と表現した戸田先生は、「今世の人間完成の目標として明確化」しました。それをこの場で、伸一はアメリカ人に更に分かりやすく7つの指標として提示していったのです。

 健康、青春、福運、知性、情熱、信念、勝利の7項目がそれです。そしてこの7つを包括するものが「慈悲」であり、それは言い換えると「勇気」を持って行動することに通じるのだと訴えました。「慈悲」=「勇気」と簡潔に表現したうえで、「権力や光栄のために闘う人ではなく、他人を助けるために闘う人」こそ「偉大なる英雄」だ、とのスウェーデンの女性教育者の言葉が引用されています。「他人を助ける勇気」を持つことが人間革命であり、広宣流布の道だと聞いたアメリカのメンバーたちが奮い立ったことは想像にあまりあります。

 自分本位でエゴにかたまる現代人の最大の欠点を打ち砕くこの指標。創価学会の強さ、凄さがここに集約されています。かつてタダで動くのは地震と創価学会だけと揶揄されたものですが、ことの本質を突いたものといえましょう。「情けは人のためならず」ともいわれます。情け深い行動こそ、「創価」の真骨頂なのです。

●宇宙の根本の法則が図顕された御本尊

 4日には伸一は、サンディエゴ会館の入所式に出席して会員に語ります。その中で強く感銘を受けるのは、南無妙法蓮華経とは何かということについて、伸一がわかりやすくアメリカ人に語ったくだりです。

 「一言するならば宇宙の根本の法則であり、宇宙を動かしている根源の力であるといえます。それを大聖人は、一幅の本尊として顕されたのであります。その御本尊に唱題する時、我が生命が宇宙の法則と合致し、最大の生命力が涌現し、幸福への確かな軌道を闊歩していくことができる」(243頁)

   私もこの原理を自覚しながら懸命に唱題を続けて、生命力を涌現させてあらゆる課題に立ち向かってきました。不思議な現証が相次いで現れることに感嘆し、我を忘れる唱題の持続に勝るものなし、を実感しています。(2022-7-12)

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