【85】真心、誠意がすべてを動かす──小説『新・人間革命』第22巻「新世紀」の章から考える/9-9

●共産党最高首脳との対話

 この年昭和50年は、戸田城聖第二代会長が先の大戦の敗戦直前の7月に出獄されてから30年が経つ年でもありました。この章冒頭では、記念集会において、伸一が戸田先生の「地球民族主義」の提唱を始め、世界の平和に向けて生涯走り抜かれた姿を宣揚。と同時に青年部代表が聖教新聞紙上で、『青年が語る戸田城聖観』と題する座談会に取組む様子が触れられていきます。5月末にソ連から帰国した伸一は、この頃各界の指導者、識者との対話に全力を注いでいました。そのうちの3人との対話が紹介されていきます。(38頁-92頁)

   7月12日に行われた宮本賢治共産党委員長と伸一との対談は、作家松本清張氏の仲介でした。毎日新聞の企画で幅広い「人生対談」として7月15日から39回にわたって連載されました。この間、7月27日には創価学会と共産党の間で、いわゆる〝創共協定〟が結ばれています。「相互理解への最善の努力をすることや、誹謗中傷を行わないことなどをうたった7項目を合意した」のです。協定期間は10年でしたが、延長はされませんでした。

 実は、この頃、共産党と公明党の最前線の党員、学会員の間ではトラブルがたえませんでした。ポスターが剥がされた問題や、ビラの配布を巡ってのいざこざが日常茶飯事でした。都内各所で暴力沙汰寸前に至るような雰囲気が漂っていました。そんなことがこの「協定」以後次第になくなっていきました。勿論、機関紙を通じての批判合戦は今になお激しく続いていますが、現場で学会員が行きすぎた軋轢や揉め事で困ることは次第に影を潜めていったのです。

 「ビッグ対談」とされたものの、中身の記憶は忘却の彼方ですが、〝余計な紛争〟にピリオドが打たれたことは率直にいって嬉しいことでした。後に衆議院議場で共産党議員と肩を並べて座るようになって、同党の権力追及への異常なまでの熱意に驚く一方、あいも変わらぬ〝嘘つき体質〟に呆れたりもしたものです。

●文芸家協会理事長との手紙のやりとりに感銘

 一方、伸一はこの春から、日本文芸家協会理事長で作家の井上靖氏との手紙によるやりとりにも取り組んでいました。この往復書簡は『四季の雁書』と題して総合月刊誌『潮』7月号から連載されました。連載開始に先立って、3月始めに二人が懇談をした内容も紹介されています。また、それに至るまでに、昭和43年のいわゆる言論問題において、文芸家協会の中から学会に対し抗議声明を出せとの声がありました。

 しかし、井上理事長は、『潮』の編集長に対して「先生(伸一)のことが、人間的な理解が伴わない形で、誤解されたまま、マスコミに喧伝されているのではないでしょうか」と述べ、マスコミの陥りやすい問題点を指摘しています。と同時に、自分が理事長である限り、抗議声明を出すつもりはないし、させませんと断定しました。このことを編集長から聞いて伸一は、「その真心が、熱く心に沁みた。この人のことは、終生、絶対に忘れまいと思った」とあります。当時、『潮』執筆者の中で、付和雷同的に執筆拒否をする者がいました。「苦境」に立った者への井上氏の思いやりが、私のような人間にも心底から有り難く心に響きました。

 往復書簡の中で、私が強く共鳴したのは、〝生涯青春〟をめぐるやりとりです。伸一の「青年期の信念を死の間際まで、貫き、燃やし続けるところに、真実の青春の輝きがある」との思いに対して、井上氏が「青春の姿勢を、死の瞬間まで崩すべきではない」と共鳴しています。〝生涯青春〟と口では言っても、死の間際に立ったことのない者は、自信が揺らぎがちです。日々の生活の中で鍛錬を怠らぬよう身に刻みたいものです。

 ●松下幸之助氏との心和む「往復書簡」

 また、松下電器産業の創業者・松下幸之助氏と伸一との往復書簡は、『人生問答』にまとめられていますが、ここではその中身が要約されています。とくに、私は「松下政経塾」の構想を述べて意見を聞いた幸之助氏に、伸一が賛同表明をためらったことに興味を持ちました。伸一は彼の健康を気遣い、政治家の育成よりも自身の健康、長寿を第一にして欲しいと思ったからでした。それでも意思を変えない幸之助氏に、伸一は折れました。すると、「ぜひ塾の総裁に‥」と松下氏は迫ったのです。

 これには驚きました。そこまで、松下幸之助という人は、伸一に信頼を寄せていたのかと。周知のように、「松下政経塾」は、多くの政治家を生み出しました。その大部分は旧民主党に参画しました。そして、一期生の代表・野田佳彦氏は首相にまでなりました。私は多くの同塾出身者を知りえましたが、概ね好感を持てる人達だったことが印象に残っています。松下幸之助氏と伸一の深く熱い交友が、松下電器の後継のパナソニック社に、そして政経塾出身の政治家に宿っていることを深く期待します。(2022-9-9)

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