【86】わずかな変化や異常さを見逃さぬ敏感さ──小説『新・人間革命』第22巻「潮流」の章から考える/9-14

●イベントと寄付行為のどちらが大事か?

 第12回全米総会を中心とした「ブルー・ハワイ・コンベンション」に出席するために、伸一は1975年(昭和50年)7月22日に日本を発ちました。海外訪問の第一歩を記した初のハワイ訪問から15年が経っていました。あの時は手違いがあり、出迎えの姿はなく、座談会に集う人たちの数もわずか30数人でした。そのハワイに、全米から多くのメンバーが集い、州知事も出席しての全米総会です。準備のために、ワイキキの海に浮島のステージを作る大作業が行われました。地元テレビ局の取材に舞台設営担当のマーフィーがあたりました。(128頁)

   浮島を造るのに相当の費用がかかっているはず。そのお金をベトナムの孤児とか、世界の恵まれない子どもたちを助けるために使おうとは思いませんか、との皮肉混じりの質問が寄せられました。それに対して、マーフィーが答えた言葉が印象に残ります。

 そうした活動ももちろん大事ですが、そのためには、市民の一人ひとりが勇気と希望をもって、平和のために行動していこうとの心を呼び覚ますことが必要です。そのメッセージを送ることで、平和への大きな潮流が広がっていきます。その催しこそがこのコンベンションなのです。──こう回答したのです。

 日本でも創価学会の活動に対して寄せられる声の中で、これに類似したものがありました。入会したばかりの頃の私も、このテレビ局の人間のように、もっと直接的な寄付や募金を集めればいいのに、と思ったことが正直ありました。しかし、ここでマーフィーが答えたように、市民の心に平和への潮流を起こすには、迂回のように見えるイベントの大事さに気付いたものでした。草創期には必要なことでしょう。現在は、イベントと寄付とどちらも大事で、平行的な試みが大切だと思っています。

●批判する者と創造する者と

   コンベンションの演目の舞台に立った演奏者の紹介がされていきますが、その中で、ジャズピアニストのハービー・ハンクスの体験が注目されます。彼の音楽はデビュー当時の米国で、魂を揺さぶられる思いがするとの新風を巻き起こす一方、「これはジャズではない」とこきおろす評論家もいたようです。いつの時代もどんな世界でもつきまとうことなのでしょう。

 ハンクスのことについて触れたくだりで、ロシアの芸術家ニコライ・レーリッヒの「人間は『批判する者』と『創造する者』とに分けられる」との言葉が紹介されています。その上で、ハンクスを「ジャズ界の王者になる人です」と励ます伸一と、それに応えんとするハンクスの心意気、努力が語られます。このうち、彼の記者会見での言葉が読む者の胸に痛烈に響きます。(156-157頁)

 「ジャズは奏者のありのままの心の表情です。したがって、奏者の心がどこまで豊かかどうかで、その音楽の内容も決まっていきます。そして、豊かな心をもてるかどうかは、奏者が自己の心を豊かにする生命の哲理をもっているかどうかで決まってしまいます。その生命哲理が日蓮大聖人の教えであることを、私は自分の体験から知ったのです」

 批判か創造かと問えば、大多数の人間は批判する者を嫌います。しかし、評論と聞くと、ややニュアンスは違ってきます。一般的には、それに加えて、行動する人や、ついていくだけの人などというように細分化する向きもあります。私は常日頃「批判」「評論」に傾きがちな人間だと、自己認識しています。創造者の側面、行動者の立場、そしてそれを分析し評論する視線を忘れぬようにと、いつも心がけていますが、併せ持つことは難しいと自覚するばかりです。持って生まれた性格の特質に由来するのでしょうか。

●悪い報告の大事さ

  「ブルー・ハワイ・コンベンション」は大成功に終わるのですが、しかし、現実には想定外の事故が起こっていました。浮島で火災が発生したのです。発煙筒の火の粉が資材に燃え移ってしまいました。油断からの事故です。火災が起こるかもしれないと、当然視して注意を怠らなければ事故は防げます。それをしなかったので、起こってしまいました。(163-166頁)

    会場に到着した伸一は、焼け焦げた臭いが漂っていることから、何かあると察知しました。役員の青年に「安全は確認できてるね。大丈夫だね」と聞いたところ、「はい。もう大丈夫です」との答えがありました。しかし、その場では何も言わずにすましました。【リーダーには、微細な変化や異常を見逃さぬ敏感さがなくてはならない】と、この箇所では指摘されれいます。

 全ての行事が終わったところで、「良い報告よりも、むしろ、事故など、悪い事態が生じた時こそ、きちんと報告することが大事です」と、幹部の〝悪しき姿勢〟を厳しく注意します。こうした過ちに触れられるところは少ないだけに、事の重大さが身に染みて感じられました。(2022-9-15)

 

 

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