【89】深刻な現代の子どもたちの悩み──小説『新・人間革命』第23巻「未来」の章から考える/10-4

●「未来の国から来た王子様と王女様」

 「吾々は未来に望を嘱して子孫の計を立てんのみ。今の処、誰が考えても教育以外に適当なる救済の道は見出し難かろうからである」──これは創価教育の父・牧口常三郎初代会長の言葉です。この章は冒頭にこの引用から始まり、伸一の【子どもを育成するということは、未来を建設することだ。ゆえに、教育は、最も大事な聖業となる】との記述に繋がります。1976年(昭和51年)4月16日に新たに開設された北海道・札幌創価幼稚園の入園式の模様から描かれていきます。(7頁-75頁)

 「入園式の日、創立者の山本先生が、迎えてくれたことを覚えています。『あっ、先生だ!』と指をさすと、『おいで!』と言って、膝の上に乗せてくださいました。幼稚園では、担任の先生から、いつも『あなたたちは、未来の国から来た、王子様、王女様なんだよ』と言われ、本当に大事にされていました。私は創価幼稚園に入るまで、近くの保育園に通っていましたので、子どもへの接し方の違いが、よくわかりました」──これはのちに同幼稚園の教員になった一期生の女性が当時を振り返った言葉として紹介されています。

 園児たちに接する伸一の姿勢はまた、深い感動を呼び覚まします。【伸一にとっても、園児たちは宝であり、その存在は生涯の誇りであった。互いに誇りとし合う、この魂の交流にこそ師弟がある。

  使命ある あの子 この児を 忘れまじ 来たる世紀の 主役なりせば 】(74頁-75頁)

 このところ小さな子どもたちを扱う大人たちの不注意や、無責任さが原因の悲しく痛ましい事故が相次いでおきています。また親の小児虐待も後をたちません。何かが狂っていると思わざるを得ない社会的現象に、我が身の周辺を戒めると共に、社会全体で子どもを育てるという意識の大事さに思いをいたします。

●札幌に続き、香港など世界各地に相次ぐ幼稚園の開園

    この後、 札幌に続いて、香港(1992年)、シンガポール(1995年)、マレーシア(1995年)、ブラジル(2002年)、韓国(2008年)と世界各地に創価幼稚園(韓国の名称は幸福幼稚園)ができていきます。伸一はそれぞれの開園式に訪問したり、メッセージを贈ったりしました。喜びを共有して励ます様子が綴られていて、微笑ましく、心和む思いになります。(75頁-101頁)

    香港では2003年(平成15年)に、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)が猛威をふるいました。そのニュースを聞くや、直ちに伸一は大量のマスクを購入し、届けます。その後、市中では子ども用マスクが品切れになり、園児や親たちはその配慮の深さに喜びました。その後、幼稚園は2ヶ月ほど休園に追い込まれますが、教員たちはビデオCDを自分たちで作り、各家庭に送ったのです。幼稚園のこの対応については、高い評価を受け、香港の新聞でも大きく報道されました。

 2006年には、香港の創価幼稚園は政府教育局などの視察の対象になりました。公表された評定リポートで「創立の主体となってる団体(SGI)は、教育に関する経験が豊富であり、国際的な視野を持っている」としています。さらに、「『人間主義の教育』を実践しており、バランスのとれたカリキュラム(教育課程)により、園児の体力、知力、外国語、情緒、美的感覚、集団行動等の能力が、全体的に向上するよう考慮されている」とし、最終的に、教職員、保護者が緊密な連携をとりあっていて、園児たちも幼稚園生活を楽しんでいる様子が絶賛されています。(86頁-87頁)

   香港の創価幼稚園は開園から30年。当時の園児たちも最長で30代後半の歳頃です。激動する香港でどのような生活を送っているのか気になります。真相を知りたいとの思いが募ってきます。

●牧口先生の今に伝わる子どもたちへの思い

   初代会長の牧口常三郎先生は『創価教育学体系』第一巻を1930年(昭和5年)11月18日に発刊しました。この日は創価学会創立記念日ですが、同時に「創価教育原点の日」でもあります。伸一は、2008年(平成20年)のこの日に世界6カ国の幼稚園に新たな指針を贈りました。

 「何があっても 負けない人が 幸福な人」「みんな仲良く 僕たち家族」「父母を大切にする人が 偉い人になる」【彼は、最も大切な幸せへの道を、人間としての生き方を、清らかな子どもたちの生命に、あらためて打ち込んでおきたかったのである】(102頁)

   「児童や生徒が修羅の巷に喘いでいる現代の悩みを、次代に持ち込ませたくないと思うと、心は狂せんばかり」──『創価教育学体系』の発刊に寄せた牧口先生の思いです。

 時代は変わりました。だが、世界の巷には修羅が続いているように見えます。この牧口先生の思いをどう受け止めるべきでしょうか。事はより深刻です。(2022-10-5)

 

 

 

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