【116】「非暴力、不服従」の道─小説『新・人間革命』第29巻「源流」の章から考える/4-26

●「非暴力、不服従」というガンジーの生き方

 1979年(昭和54年)2月3日に伸一は鹿児島空港を立ち、香港を経てインドに向かいます。デリー大学での図書贈呈式に出席する一方、首相や外相ら要人との会見と共に、会員の激励に全力を込めていきました。その合間に、ニューデリー郊外のラージ・ガートに行き、遺体が荼毘に付された地で、ガンジーに想いを馳せます。

 【 人類の歴史が明白に示しているように、不当な侵略や支配、略奪、虐殺、戦争等々の暴力、武力がまかり通る弱肉強食の世界が現実の世の中であった。そのなかで、マハトマ・ガンジーが非暴力、不服従を貫くことができたのは、人間への絶対の信頼があったからだ。さらにそこには「サティヤーグラハ」(真理の把握)という、いわば宗教的確信、信念があったからだ。】(397-398頁)

    【敷地内の一角に「七つの罪」と題したガンジーの戒めが、英語とヒンディー語で刻まれた碑があった。──「理念なき政治」「労働なき富」「良心なき娯楽」「人格なき知識」「道徳なき商業」「人間性なき科学」「献身なき祈り」いずれもガンジーのいう真理に反するものであり、「悪」を生み出し、人間を不幸にしていく要因を、鋭くえぐり出している。伸一は、「献身なき祈り」を戒めている点に、ことのほか強い共感を覚えた。行為に結びつかない信仰は、観念の遊戯にすぎない。信仰は人格の革命をもたらし、さらに人びとの幸福を願う献身の行為になっていくべきものだからだ。】(399-400頁)

   伸一は、この地で、非暴力の象徴としての「対話の力」で、人類を結び、世界の平和を築くべく、その生涯を捧げようと深く心に誓いました。ガンジーの思いにも、伸一の誓いにも反する動きが、残念ながら今もなお横行して止むことがありません。あくなき挑戦を諦めずにし抜くことこそ、後に続く我々に課せられた使命と思います。

●ICCR のカラン・シン副会長の言葉

 様々な交流のなかでも、印象に残るものの一つが、訪印団の招聘元であるICCR(インド文化関係評議会)のカラン・シン副会長との会談であったと私には思われます。2月8日のニューデリーでの答礼宴で、同副会長は、人類が核戦争の危機に直面していることを取り上げ、その要因は人間の内面にあると強調。その危機を打破するために、〝人類はすべて一つの家族〟との理念に立ち返るべきだと訴えたのです。加えてインドが世界に誇る古代文明のなかから釈尊が登場し、その教えを基調とした創価学会の思想と目的の素晴らしさを賞賛したのです。(403-404頁)

【学会は、この招待の返礼として、翌1980年(昭和55年)10月、シン副会長を日本に招き、さらに友情を深めていった。来日の折、伸一との語らいで対談集の発刊が合意され、88年(同63年6月)、『内なる世界──インドと日本』が上梓される。ヒンズー教と仏教という違いを超えて、両者の底流にあるインドの精神的伝統を浮かび上がらせ、その精神文明が現代の危機を克服する力となることを訴えるものとなった。】

 釈尊によって誕生した仏教が数千年を経て、日本に伝来したという人類史を画する動きを、「内なる世界」の観点から掘り起す試みは極めて重要です。世界史における近代は、ヨーロッパのキリスト教を源流とする宗教からばかり見られがちですが、アジアにおける仏法の東遷から西遷への壮大な往還から見ることの大事さを、ここから学べるのです。

●思想、宗教を忘れることの悲しさ

 さらにこのあと、伸一は西ベンガル州のトリブバン・ナラヤン・シン知事と語らいます。ここでも重要なテーマが取り沙汰され、読むものの心を揺さぶっていくのです。

 伸一は、同知事に「インドの繁栄と平和のために献身されてきて一番悲しかったのは何ですか」と尋ねます。その答えは「イギリスの支配が終わって、インドが独立してわずか数年で、多くの人びとが、釈尊やガンジーなど、偉大なインドの思想家の教えや宗教を忘れてしまったことです。とりわけ宗教は人類にとって極めて重要であり、人類史に誇るインドの大きな遺産でした」とあるのです。(441頁)

   シン知事が釈尊の生み出した仏教の源であるインドが、今やその宗教を忘れ去った存在になってしまっていることを嘆いていることに思いが及びます。極東の地・日本で、米国との敗戦から占領を経て、創価学会が目まぐるしい進展をしていることに注目していることは、見逃せないことだと思えます。

 しかし、それを深く考えれば、日本における仏教の現状には歪なものがあり、決してインドから羨望の眼差しで見られるほどの存在ではないと言わざるを得ません。インドと日本──この仏教有縁の両国が今こそ、互いの立ち位置を自覚して、人類の平和に向けて協調し、立ち上がる時を迎えていると思えてならないのです。(2023-4-26)

 

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