【117】師の心弟子知らず──小説『新・人間革命』第30巻上「大山」の章から考える/5-3

●会長勇退に「時流」との認識

  山本伸一が創価学会会長を辞任するとのニュースは1979年(昭和54年)4月25日のこと。前日付けの聖教新聞に所感「『七つの鐘』終了に当たって」が掲載されても、大半の学会員はその事実を未だ知りませんでした。この章では、のちに「忘れまじ嵐の4-24」と受け継がれていくことになる日前後の様子が克明に記されていきます。今日2023年5月3日は、あの日から44年が経ち、聖教新聞に小説で再現されたのは6年前のことです。

 その頃の一連の紙面を読み、あらためて痛烈なショックを受け、深い悔恨を抱いた人は少なくないはずと私は思います。まさにその当のくだりは、宗門と学会との関係を割くべく邪智の謀略家たちの動きによって、伸一が会長を辞めることなどの対処を協議する首脳会議の場のことでした。4月5日朝、立川文化会館です。

    伸一は、集まった首脳幹部の一人ひとりを、じっと見つめた。皆、眉間に皺を寄せ、口を開こうとはしなかった。長い沈黙が続いた。伸一が、一人の幹部に意見を求めると、つぶやくように語った。「時の流れはさからえません‥‥」  なんと臆した心か──胸に痛みが走った。    ( 31-32頁)

   「しかし、それにしても不甲斐ないのは〝時流〟という認識である」「私は師子だ!何も恐れはしない。皆も師子になれ!そうでなければ、学会員がかわいそうだ。烈々たる闘争心と勇気をもって、創価の師弟の大道を歩み抜くのだ。その一念が不動ならば、いかなる事態にも揺らぐことはない。戸田先生は見ているぞ!」彼は席を立ち、部屋を出ていった。窓の外で、桜の花が舞っていた。(33-34頁)

 風の噂で、ある幹部のこの発言があったことを聞いて、「誰だろう」と、私は詮索するのみでした。ある時、誰かれではない、この当時の青年部幹部全体に少なからずあった空気を代弁していると気付きました。「時流」の一言は、当事者意識とは遠く、傍観者の心です。現場の渦の只中にないがゆえの発言の集約だった、と。しみじみと、「青年部幹部」ではなく、「幹部」とだけあることに、深い「師」の思いを感じます。

●赤裸々な弟子たちの質問

会長を伸一が勇退し、十条潔に交代することが伝えられたのは4月24日午前の新宿文化会館での県長会。その直後に会場に姿を現した場面の描写は感動を持たずして到底読めません。

「先生!」いっせいに声があがった。彼は悠然と歩みを運びながら、大きな声で言った。「ドラマだ!面白いじゃないか!広宣流布は波乱万丈の戦いだ!」「既に話があった通りです。何も心配はいりません。私は、私の立場で戦い続けます。広宣流布の戦いに終わりなどない。私は、戸田先生の弟子なんだから!」(74頁)

 「先生!辞めないでください!」「今後、先生はどうなるのでしょうか」「会長を辞められても、先生は私たちの師匠ですよね」「県長会には出席していただけますか」「各県の指導には回っていただけるんでしょうか。ぜひ、わが県に来てください」「皆さんは、先生が辞任されるということを前提に話をしている。私は、おかしいと思う。そのこと自体が納得できません!」──この一連の県長たちの声に伸一は、一つひとつ反応した後に、「物事には、必ず区切りがあり、終わりがある。一つの終わりは、新しい始まりだ。その新出発に必要なのは、断固たる決意だ。誓いの真っ赤な炎だ。立つんだよ。皆が後継の師子として立つんだ。いいね。頼んだよ」と答えて、「県長会は涙のなかで幕を閉じた」のです。(77-78頁)

   この時の県長たちの発言はまた、会員みんなのこころを代弁していました。私自身の当時の思いは、不思議なくらいカラッとして前向きに燃えていたことを鮮明に思い出します。生来の暢気さゆえと自戒しています。

●45回目の「5月3日」

    会長勇退の報から一週間後、5月3日の第40回本部総会が開かれました。この時の伸一の挨拶は、まさに新時代を画する壮絶な思いが凝縮されたものでした。

 「何があっても、信心だけは、大山のごとく不動でなければならない」彼は話を続けた。「戸田先生逝いて二十一年。ここに創価学会創立四十九年──学会の第一期の目標である「七つの鐘」を打ち鳴らすことができました」(112-113頁)

 この章は、伸一が会長として19年の戦いで、学会が大きな前進を遂げたことへの圧倒的な確信と共に、宗門と結託した一握りの弟子による魔の蠢動に対する凄まじい怒りとが交錯して登場します。師のこの深い思いを汲み取らずしてこの章はあだやおろそかに読めないのです。その本部総会から45回目の5-3に、学会及び公明党が直面する課題に思いを致すとき、いよいよこれからだぞ、と日蓮仏法の実践者であり、公明党の議員OBとしてなすべきことの多さに武者震いするだけです。(2023-5-3)

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