【7】南アの人種差別をラグビーから考えさせる━━『インビクタス/負けざる者たち』を観て/9-1

 

 暑い熱い真夏の炎天下での高校野球をテレビ観戦していて、あらためてスポーツの持つ力を思い知った。この3月には、WBC第5回大会での日本の優勝に国中が湧いた。そんな興奮さめぬ中で、南アフリカの1995年ラグビーワールドカップ初優勝に至る経緯を描いた『インビクタス/敗けざる者たち』を観た。2008年制作。監督はクリント・イーストウッド。アパルトヘイト(人種隔離政策)に激しく抵抗し、獄中27年を経て1990年に大統領に就任したネルソン・マンデラ氏の国家再建ぶりを背景に、白人と黒人の心技一体化したプレーへの流れは、まことに爽快で、観るものをして深い感動を抱かせた◆マンデラを演じたモーガン・フリーマンが本人そっくりと思われたのはご愛嬌だったが、手に汗握る戦いを演じ切った主将役始め選手たちの演技力にも現実さながらのリアルさが印象深い。ここではあらためてラグビーという格闘技的スポーツの魅力に感じ入った。現実はことほど左様にスムーズに運んだかどうか疑問なしとしないが、スポーツが人種差別による分裂国家を、一変させる媒介の役割を果たしうる可能性を見せつけた功績はたとえようもなく大きいと考えさせられる◆この国の人種差別の凄まじさを描いた映画といえば、1987年製作・公開の『遠い夜明け』(リチャード・アッテンボロー監督)を思い起こす。デンゼル・ワシントン扮するスティーブ・ピコという黒人とドナルド・ウッズなる白人新聞記者の深い友情の絆をもとに、獄中下のマンデラの言語を絶する苦闘もさもありなんと想起させる映画だった。ピコの虐殺の背景を暴く本を書く決意をした、ウッズの飛行機を使った亡命に至る脱出劇はハラハラドキドキの連続で見応えがあった。ボツアナへ家族ぐるみで逃亡する最終シーンに、南アフリカ内に浮かぶ島のように存在するレソト国を経由する場面がある。実は現役時代に、私はこのレソト国の抱える課題解決に関わったことがあり、あたかも映画の中で実際にサポートしたかのような錯覚を持った◆この映画のエンディングでアパルトヘイトの犠牲になった人々の名前が延々と出てくる。その字幕を見ながら、アフリカ大陸の行方を思わざるを得なかった。21世紀はアフリカの世紀と言われてきたように、欧州各国の植民地支配からの脱却を経て今新たなる勃興の時を迎えてはいるものの、プーチンのロシアと習近平の中国による狡猾極まる専横的進出に直面している。現在の苦境を脱して、自主独立の社会を保ち得る国家群が多数出現するのかどうか。これ以上の犠牲者を出さぬよう人類の知恵の結集を望みたい。(一部修正 2023-9-3)

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