この映画は、知的障害を持つ(7歳ぐらい)男性が子どもを育てることができるか、というテーマ。この映画では母親は出産とともに消えてしまい、悪戦苦闘しながら父親は頑張る。子どもの年齢に追い抜かれて、問題は深刻に。現実には、起こりそうな設定だが、育てるのはまず上手くいかないと思われる。それをやってしまう過程が、何とも言えず感動的に描かれており、惹き込まれた◆この映画の魅力は、サムを演じたショーン・ペンの演技力だ。障害を持つ人びとのしぐさを徹底して学び、それらしく振る舞う。われわれの身の回りにいる障害者とまったく同じに見え、およそ演技によって培われたものとは思えない。また、4人ほどのサムの友人たちも登場するが、見事なまでの障害者ぶりだ◆見どころは、当初は関わりを避けていた女性弁護士の変身。愛が冷え切った彼女自身の家庭との対比は鮮やかである。裁判の成り行きは、障がいのある実父に育てられるのが子どもにとって良いのか。それとも里親のところに預けられ、時々会うのが良いのかといった二者択一で進む。正解はいずれとも言えず、切なさが募るばかりである◆知的障害者をめぐる映画といえば、先にトム・ハンクスの『フォレスト・ガンプ/一期一会』を観た。こっちは知的障害というものの、いつの日かランニングの名手になり、ラグビー始め各種のスポーツで名を馳せるという、いささか夢物語っぽいものだった。サムの方は母親不在で父親の献身的愛が印象的だが、こっちは父親不在、母親の不滅の愛が胸に迫る。どっちも長く忘れられない。(2023-10-24一部修正 障がい→障害と記述)