首から下が全く麻痺して動かず、感じない━━という状態の人がこの映画の主人公。身体の不自由さを除けば、大金持ちであることがもたらす、あらゆる自由を持っている。そしてその彼を〝あらゆる面で支える〟人がもう一人の主人公。彼は身体は屈強そのものだが、経済的にも、家庭環境的にもあらゆる意味で貧しい。フランス人とアフリカ系黒人。見終えて確かに〝最強の〟という形容詞はこの二人にとってとても相応しい。二人合わせて最強なのだが。この映画はどんな人間でも一人では生きられないということを示唆していて、素朴に助け合うことの大事さを訴えているように私には思われる◆この映画は実話に基づく。1993年の事故ののちに、2001年に出版された本が原作だ。パラグライダーの事故で頚椎損傷になったフランス人大富豪(フィリップ)と、介護人として雇われた貧困層出身の移民・アルジェリア人(アブデル)。この2人の演じる笑いと涙のコメディになっているのだが、泣いて笑ってその後にズシンと重くて深いテーマが迫ってくる。私は、最近歳のせいかなみだもろくなって、何を見ても聞いても、泣いてしまう。そして、すべて笑いでごまかしたい気になる。この映画はそこらの機微を見事に捉えている◆フィリップが足の上に熱湯がかかっても反応しない場面に、つい体をよじったり、特製の手袋を渡されて〝下の世話〟を迫られるシーンには、つい実写を見たくなったり(現実はそれはなし)してしまった。また、フィリップが、恋文を書いてるのを見て、余計なお節介をしたあげくに、デートを設定するアブデル。それを土壇場になって逃げるフィリップに同情したり、と。逆にグライダーに乗ろうと迫られて逃げようとするアブデルと、それを笑いながらサポーターつきで空を飛ぶフィリップに同調してみたり、と。あれこれ現代世界が抱える問題が顔を出しつつ、起伏に富んだ展開は胸を打つ◆実はつい先日、私の親しい友人・蔭山照夫さん(83)と会って懇談した。この人の息子さん(武史さん)は、難病・筋ジストロフィーのため、若くして寝たきり状態になったが、40歳台半ばで先年亡くなるまで、パソコンをベッドの上で仰向けのまま、センサーを通じて動かし、その意志を家族に友人に伝え続けた。子どものころに書いた『難病飛行』と言う本が原作となって、このほど映画が完成し、神戸の映画館での上映が終わったばかりだ。この映画の試写会の模様は「後の祭り回想記」112に書いた。武史さんの「不自由だが、不幸ではない」との言葉と、彼を支えた両親や実姉(広田由紀さん)、音楽演奏家の「ちめいど」ら友人たちの献身ぶりが、映画『最強のふたり』を見て、あらためて思い出された。人間は、支え合って強くなるという当たり前のことと共に。(2023-10-17)