【13】天才と紙一重の能力持つ障害者━『レインマン』を観て/10-24

 知能指数それ自体は高く、時に驚異的な記憶力を発揮するものの、自分自身の感情をコントロールしたり、自己表現がうまくできないという、サヴァン症候群(アスペルガー症候群とは似て非なるもの)の患者が主人公。幼くして擁護施設に入ったまま歳月が過ぎ30代になって、父親が死んで初めて彼の弟が兄の存在を知るという設定。弟は自由奔放な利己的な青年で、生前の父とは没交渉の関係(原因は彼にある)にあり、その遺産は殆ど全て障害者の兄にあてられた遺書を知って愕然とする。一転、その遺産を自分のものにすべく、兄を拉致し、施設から遠く離れたロサンゼルスに連れていこうと画策する◆墜落の危険性を挙げて、飛行機に乗ることを兄が徹底的に拒否するため、飛行機なら3時間の距離を3日かけて車で移動する道中のてんやわんやを描くロードムービーでもある。兄をダスティン・ホフマン、弟をトム・クルーズが演じる。実話のモデルがいて、作家のバリー・モローが取材して脚本を書くことを決意したという。どんなに分厚い本でも一読しただけで覚える並外れた記憶力と、4桁の掛け算や平方根を瞬時に言い当てる能力は超人的。その一方で、人の話を理解して想像することはできず、いわゆる社会的常識には全く欠ける。こうした特性の披歴で、観るものは釘付けになってしまう。とりわけレストランで、爪楊枝1ケースがこぼれた瞬間にその本数を言い当てたり、ラスベガスのカジノで次々と数字の記憶力の威力を見せつけられ、驚きの連続◆他方、最初は遺産目当てで、自分も次男としてそれ相応のものを貰わねばと、裁判も辞さぬ姿勢で強気一辺倒だった弟だが、次第に兄への肉親の愛情に目覚めていく。この辺りの展開はそれなりに見せ場があるものの、今ひとつ胸にぐっとこない。別れの場面など伏線があっただけに、ひと工夫があるものと期待したのだが、肩透かしに終わってしまう。結局は、超能力の〝見せ物的側面〟のオンパレードで終わったように思われる。「レインマン」(雨男)というタイトルの由来も、説明が中途半端なままで落ち着かない◆昨今、私たちの身の回りに、知的障害や自閉症などの発達障害のあるこどもたちや大人が散見される。この映画の主人公のように、特別際立った能力ではなくとも、普通の人間を大きく上回るような才能を持ちながらも、日常生活に馴染まないことから差別やいじめの対象になってしまうのは忍びない。社会全体としてこういった発達障害への取り組みを考える必要があろう。この映画はあまりにも極端な才能の羅列に終わってしまっているようなのは残念だ。発達障害って意外に凄いじゃないってひっそりと思わせて欲しかった。というのが私の率直な感想である。(2023-10-24)

 

 

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