【28】反戦とナショナリズムと映画の今昔━━映画『カサブランカ』を観て/3-24

 地中海に面した北西アフリカ・モロッコ最大の都市カサブランカを舞台に、第二次世界大戦末期に当時その地を支配していたフランスの反独活動を描いた映画である。ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンが主役のラブロマンスを乗せた魅惑的な作品でもある。その頃のカサブランカには、ナチス・ドイツの侵略で、戦災火中のヨーロッパから中立国ポルトガルを経て、アメリカに逃げ渡ろうとする人々が多く集まってきていた。主人公のアメリカ人リックはパリ陥落前に別れた恋人イルザ・ラントと、彼が経営する「カフェ・アメリカン」で偶然に再会するところから物語は始まる。話は、昔の恋人2人に、今はイルザの夫でドイツ抵抗運動の指導者のチェコ人・ヴィクター・ラズロ(ポール・ヘンリード)と、フランス庶民地警察のルノー署長(クロード・レインズ)の2人が絡み、それぞれ、三角関係、男同士の友情を縦軸、横軸にして展開していく◆この映画、見どころは多いが、私的には、フランスの反独姿勢が貫かれた〝国歌うたい合い〟場面が最も強く印象に残る。カフェ店内でドイツ軍士官たちがドイツの愛国歌「ラインの守り」を歌い、居合わせた客にも合唱強要しようとした時に、ラズロがこれに憤慨してフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」をバンドに演奏させて、多くの客たちが立ち上がって歌い出した場面。期せずして独仏国歌競唱になった。このシーンを観て、思わず国家と歌の関連性を思わずにいられなくなった。オリンピックを始めスポーツの勝利を祝して国歌が演奏されるが、日本の場合「君が代」がいかにも不釣り合いに聞こえてならぬ思いを持つのは私だけだろうか。重々し過ぎて勇壮なイメージと遠いのだ。かねて、「第二国歌」制定論を提唱してきた身としては、この映画で改めてその思いが〝鎌首をもたげた〟しだいである◆他にも反独のレジスタンスを強く滲ませるくだりは多い。特にルノー署長が自ら対独抵抗活動のシンパであったことを明らかにして、ミネラルウオーターに描かれた「ヴィシー水」のラベルを見てゴミ箱に投げ入れるところや、リックに自由フランスの支配地域であるブラザヴィルへの逃亡を促す場面などを、後から知って考えさせられた。前者では今から70年以上も前に飲料水ボトルが出回っていたフランス有縁の地域の先進性と、フランス領コンゴのブラザヴィルの独自の政治的位置に思いを馳せることになった。この映画のラストシーンは、特筆すべき興味深いものがあるが、とりわけ、新旧2人の愛する男性のどちらを選ぶかの選択を迫られたイルザに、土壇場で身をひいたように見えるリックと、その彼に生への展望を開かせたルノー署長とのあつい心の交流がグッと胸に迫ってくる◆先の大戦での戦場としてのヨーロッパは、この映画を始めとして、連合国の視点からの対独レジスタンス活動をテーマにした映画が多い。一方、アジアでは、中国大陸やインドシナ半島が戦場になったものの、大日本帝国の侵略への民族横断的な抵抗活動を主題にした映画はあまり記憶に浮かばない。これは映画という芸術が比較的早くから国民生活に根ざしてきたヨーロッパ社会と、近代への旅立ちに遅れたアジア社会との差異に関係するのだろう。戦争の最中にこんな映画を作った国の凄さを改めて思う一方、それから80年ほどが経った今、ウクライナやパレスチナ始め世界各地で続く戦火の中で、映画関係者はどうしているのだろうと考えざるをえない。(2024-3-24)

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