『夜の大捜査線』を観て、シドニー・ポアチエのファンになった人が多いというのはうなづける。めちゃかっこいい。顔、格好で判断するなといわれても、一般的に白人と比べて、黒人や黄色人種は見劣りがする。つくづく天は不公平だと思うが、時々例外的な存在もある。ポアチエはその代表格だろう。しかし、この映画でアカデミー賞主演男優賞を取ったのは保安官役のロッド・スタイガーだったというのには驚く。白人至上主義者が多い中で、黒人に理解ある役どころの好演ぶりが買われたのか。保安官として間が抜けたところをふんだんに見せながら黒人刑事を引き立てる演技力が買われたのか。ともあれ顔形でなく中身が買われたのだけは確かだろう◆この映画で不思議なのは、事件の黒幕がてっきり綿花栽培園の経営者だと思わせておきながら、結果はハズレで、通りすがりの痴漢的犯罪だったことだ。こっちの想像通りだった方が最終的にはカタルシスが大きく、観ていた人間の溜飲が下がるのに、と妙に残念に思った。そういえば、この間観た『大脱走』もがっかりする結末だった。ドイツの捕虜収容所にいる米欧系の兵隊たちが周到な準備の末に大量に脱走を試みるものの、ことごとく失敗に終わるのだ。考えてみれば失敗は当然なのだが、観る方は最後まで成功を期待してしまう。それに、主役の(と思しき)スティーブ・マックイーンの役どころがいまいちよくわからない。浮いているというのだろうか。こういう映画は、もっとハラハラドキドキに徹した面白いものにしてほしいものと思った◆そこへいくと、あまり期待せずに何となく観てしまったけど、後で妙にズキンと応えてきたのが『ゴースト/ニューヨークの幻』。愛する女性と一緒にいた男性が無惨にも殺された。その男の霊が、愛する女性を守るべく活躍して憎っくき犯人に復讐するというもの。元来そういうSFじみた奇想天外なストーリー展開は嫌いな私だが、この映画は違った。デミ・ムーアが演じた女性のあまりの可憐さに胸キュンとなったせいか。姿が見えないだけに、突然生死を分かち裂かれた恋人同士の切ない思いがグイグイと迫ってくる。亡くなった人間の霊が活躍するという映画は以前に観たフランスのジャン・コクトーの傑作映画『オルフェ』がそうだった。あの映画も堪能したものだが、面白い手法ではある◆この映画で妙に活躍するのが黒人女性霊媒師役のウーピー・ゴールドバーグ。とても美的鑑賞には堪えられないマスクなんだけれど、それがゆえのど迫力が何とも言えず胸締め付けられる。彼女はこの役でアカデミー助演女優賞に輝いた。この映画はデミ・ムーアが演じた陶芸家と恋人のパトリック・スウェイジの陶芸シーンが有名になったというのだが、2人の映画での新居がニューヨークで20世紀半ばから若い芸術家が移り住むようになったソーホーにあるという設定。実はついこの前に読んだ渡辺将人氏の『アメリカ文化の副読本』で、そのあたりについてを知るに至った。そんなこと知ってもどうというものでもないが、なぜか得をした気にはなる。(2025-4-10)