【122】《ドキュメンタリー4選》市販薬の大量服用の恐怖から今再びの自国第一主義まで/10-20

 

 テレビのドキュメンタリー番組を私はよく観ます。これから月に一回のペースで、気に入ったものをご紹介したいと存じます。一回目はこの10月に観たものからベスト4とでも言うべきものを選びました。

⚫︎若者に広がる市販薬大量服用の恐怖 「オーバードーズ」若者の命をどう守る(NHKスペシャル 10月18日放映)

 風邪薬や咳止めの薬などの市販薬を中学生、高校生から20代の若者が大量に飲むことで、一種の麻薬による酩酊状態に陥ることが流行っているといいます。SNSを通じて知った若者が中毒症状になり、そこから抜けきれずに生命の危機に陥っていることが報じられていました。7-8種類の素材(薬剤)が入っていることで、まるで麻薬を飲んだと同じような気分になり、嫌なこと、辛いことを忘れていかに気分がハイになるかと言うことを口々に語っていたのです。

 当事者やその家族、医師を始め救済する立場にある団体やら、薬を売る側、厚生労働省の役人など関係団体のあらゆる人々が負のサイクルから逃れるための手立てを論じていました。フランスでは市販薬を売る薬局に処方箋を提示することの義務化を法的に決めたということでした。それぞれの言い分を聞きながら、「こんな薬に頼らざるを得ない僕らを救ってくれるのは誰か」と言った声が重くのしかかってきました。元厚労省の麻薬課長をやっていた畏友山本章氏にメールで対策を聞くと、「どう考えても妙案がない」とか。嗚呼。

◆レールをつなぎ人をつなぐ 台湾高速鉄道の軌道建設 (NHK 新プロジェクトX  10月18日放映)

    こんな爽やかな気分になったのはいつ以来だろう。この番組は観るものをしてワクワクさせてくれた。台湾に日本の新幹線技術を投入し建設したのは2007年。この物語は、350kmものレールを継ぎ目なく5万箇所以上も繋ぐ技術を従業員20人ほどの零細企業が請け負って、台湾人に伝授したという凄い記録である。

 この物語の主人公の磯畑信武氏は81歳。私と全くの同い年だが、まるで明治生まれの我が親父世代を見るようだった。徹頭徹尾古い日本人の技術屋を思わせる達人。台湾の人たちとは合わないところも多々あった。そんな中を乗り越えていくのだが、日台の文化の溝を埋める役割を果たしたのが通訳の陳美鈴さん。番組最後に司会が何が最も嬉しい体験でしたかと訊くと、にっこりしながら「結婚です」と。一瞬、意味が分からなかった。実は一緒に仕事をした日本人技術者と結ばれたのだった。レールに結ばれたご縁だった。子や孫に囲まれての食事風景がとても輝いて見えた。

⚫︎   命の声を届ける 作家・市川沙央 (NHK こころの時代 10月19日放映)

2023年に『ハンチバック』(背中が曲がった人の意)で芥川賞を受賞した市川沙央さん(45=写真)は、ミオチュブラー・ミオパチーという重度の障がいを持つ。彼女は車イス姿のまま喉に特殊なマイクをあてて語った。これは彼女の初めてのテレビのロングインタビュー。色んなインタビューを聴いてきたが、文句なしにこの人のものが心を最も揺さぶられた。

 「生きれば生きるほど私のからだはいびつに壊れていく」「死に向かって壊れるのではない。生きるために壊れる」「生き抜いた時間の証として破壊されていく」「本を読むたび 背骨は曲がり 肺を潰し 喉に孔を穿ち 歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた」「息苦しい世の中になった、というヤフコメ民や文化人の嘆きを目にするたびに私は、『本当の息苦しさも知らない癖に』と思う」(以上は著作から)

 今時代はマイノリティーを抑圧する方向に向かっている。今とても不安に思っている人たちが大勢いる。私のようなものがここにいて声を出して姿を見せることがその人たちに届けばいいかなと思いました。(どうしてこのインタビューを受けることにしたのかと問われて)

 ステレオタイプは社会が作り上げてきたものであり。偏ったイメージが横行する原因として当事者の不在がある。(卒業研究論文から)

   私はとんでもない意志の強さを持ったどえらい作家の誕生を今頃知って、ただ恥ずかしい。読まなきゃいられない。

⚫︎こうして世界大戦は始まった (戦争の世紀バタフライ・エフェクト  10月19日放映)

 1920年のアメリカから映像は始まる。「アメリカ第一」を叫ぶ時の米大統領ハーディングは、まるで現在の大統領トランプそっくりの「関税障壁」を各国との間にかけまくる。風貌は違えども口にするものはまったく同じ。番組では各国がそれぞれの国内政治の苦境を打破するために懸命に軍事力拡大をはかりつつ経済の打開に取り組む姿を描く。画面からは一言も今の時代に酷似しているとは聞こえてこない。しかし、世界各国が相互に協力し助け合う路線を取らない限り、やがて世界大戦の道に進むかもしれない。

 日本も独自の経済圏を構築すべく動き、やがて満州国の建国から東亜共栄圏構想へと軍事拡大への道をひた走る。ドイツも天才銀行家といわれた男がヒトラーと持ちつ持たれつの関係を作ってのし上がっていく。こうした戦前の姿を追うと悪夢が蘇る。私のような戦後第一世代は、団塊の世代共々、生まれてこの方右肩上がりの経済成長の時代に生き、アメリカの庇護のもとにぬくぬくと育ってきた戦後民主主義の申し子的存在であると言わざるを得ない。戦争を知らない世代が日本中に満ち溢れたときにこそ、いつかきた道を歩むことになりかねないと危惧する。(2026-10-20)

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