【18】僕の新刊本『ふれあう読書』(下)の読みどころ━━ジャーナリスト編/7-5

⚫︎日本の各地で貴重な仕事に取り組む人々を描き出す営み

 この本の出版直後に、当の出版元の存在する出雲市から、「知ってる人が出ている」との報がありました。驚きでした。総合雑誌『潮』の編集記者を経て月刊誌「理念と経営」の編集長をされた背戸逸夫さんのことでした。取材を受けたことがあるという会社の関係者からの知らせでした。日本中の企業経営者の人物像を描き出す仕事を、ジャーナリストとしての人生の総仕上げにした背戸さん。新聞記者を振り出しに、政治と社会を見続けてきた僕にとって、同じ業界のうるさい先輩でした。「本出した?俺のこと書いた?大丈夫かよ」と、冷やかされたかのような錯覚を抱いたものです。

 僕の人生と新聞の関係は、少年時代に「新聞の題字」を切り抜き集めていたことがきっかけかもしれません。昭和20年代後半から30年代初めの神戸市垂水区塩屋町界隈で流行っていたのです。そんなの幾ら集めてもタカが知れてるのにと、今では思うのですが‥‥。やがて、「新聞配達少年」になり、「記者」に憧れて、配る側から書く側に回り、初めてそれが記事になった日の甘酸っぱい感動。まるで自分の娘の幼稚園に初参観して、お遊戯の輪の中に見い出した時のような、複雑な感覚でした。

 元毎日新聞記者の大森実さん(母校長田高の先輩)の講演(ベトナム戦記)を聞いたことが、僕の人生を決める発端、誘因になったことは、この本の上巻に書き留めた通りです。実は、「匠の世界」を描き切った元神戸新聞の内橋克人さんも永く憧れた郷土出身のジャーナリストでした。上巻の第4章(経済と生活)の頭に彼を置き、第5章(社会と人間)のトップに大森さんを配置したことは、僕の職業選択と後の伴走役へのお礼の意味合いを込めたつもりだったのです。

⚫︎広がる本を愛する読者仲間の輪

 下巻ではジャーナリスト編として、冒頭に述べた背戸さんを先頭に7人の面子を並べています。以下、残る人たちのうちから4人を紹介します。

 議員を引退後、東京に行く機会がほぼなくなり、めっきり交流する場面も減りました。そんな中で唯一、安保政策研究会のみが大事な繋がりです。理事長の浅野勝人(元内閣官房副長官)さんは元NHKの解説委員でした。その豊富な人脈を活かして集まったメンバーによる『安保研リポート』も50号を超えて活気を呈しています。浅野さんは『ふれあう読書』下巻を、ご自身の『宿命ある人々』から目を通したのちに「こんなに的確に解読してくれた人はおりません。こんなに深い評論をしていただいて嬉しい。家内が読んで感動しました。著者同士の長い、いい付き合いが絆の深い友情で繋がっているから、こんな好意ある公平な評論になったに違いない」とのメールを届けてくれました。

 50人の著者たちから感謝していただく声が相次いでいますが、奥方からの声は浅野夫人のみです。最後に総括して50人の書評のトップをあげたら、迷うことなく、とご自身の著作を挙げておられたのは微笑ましい限りでした。

 公明党の議員になる前から機関紙記者をし、市川雄一元書記長の秘書をしていた僕だけに新聞記者との付き合いも数多くあります。その中で縁が深かったのが、「朝日」の西村陽一さんでしょう。本の中でもふれましたが、彼の処女作『プロメテウスの墓場』は実に読ませました。先日も本好きの慶應の後輩に拙著を贈呈したところ、まず西村さんの本から購入して読んでいるという返信を貰ったのには〝同好の士〟を得たようで、とても嬉しかったものです。

 西村さんと並ぶ俊英ぶりの印象が濃い記者は共同通信の太田昌克さんです。最近はテレビのコメンテイターとしての登場が多いようですが、雑学に流されないで、本業である「外交・安全保障」分野での発信を忘れぬように願いたいと思うのは老爺心が過ぎるでしょうか。この分野でもリベラルの潮流が劣勢で、リアル優先のために、保守の基調が強まり過ぎている傾向があるように見えてなりません。その意味でも『偽装の被爆国』はとても大事な本だと思えました。

 最後に神戸新聞の武田良彦さんについて。僕が書評集下巻をものするにあたって、紛れもなく楽しみながら読み続け、指先によりをこめて書き上げたのは骨董品をめぐる彼のエッセイ集『骨董病は治りません』でした。出来栄えも悪くないはずです。武田氏本人も「今年の芋煮会にはぜひ」と僕が喜ぶセリフを忘れていません。ところが僕の大学同期で骨董品に入れ込んできたO君が、この書評にほとんど関心を示さない。謎です。一番喜んでくれるはずと思い込んでたのに。なぜかくも骨董品を愛好してやまない記者の経験談に冷たいのか。深まる疑惑を解明しようと近く直談判を決めています。(2025-7-6)

 

 

 

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