【14】僕の新刊本『ふれあう読書』(下)の読みどころ━━作家編/7-1

⚫︎男の自立と自律、ユーモアめぐる忘れえぬやりとり

 第2章は、作家編です。まず、ドナルド・キーンさん。この人とは偶然新幹線で隣り合わせになりました。元衆議院議員の大先輩の塩爺こと塩川正十郎氏から『明治天皇』上下巻を貰って読んでいらいファンになったという妙な関係です。『日本文学史』全18巻もせっせと読みました。ここで紹介した本はそのダイジェスト版です。谷崎潤一郎や芥川龍之介に比べて「夏目漱石が世界の古典にはなかなかなれない」との評価は妙に印象深いものがあります。

 次に曽野綾子さん。ついこの間亡くなってしまわれました。衆議院憲法調査会に来ていただいてご意見を聞き、質問したことがご縁のきっかけです。短い時間でしたが、心が通い合う質疑ができました。キリスト者らしい人間への深い洞察力に満ちた『晩年の美学を求めて』は、読み応えのある本ですが、「自立と自律」をめぐる現代人への忠告など、僕の耳にはとても痛い中身でした。要するに家事の一切を妻任せで、サポート出来ない男は、自立はしていても自律できてないといわれるのです。深く印象に残っています。

 河合隼雄氏は、ご自身1人で書かれたものより対談集が面白いと、この『あなたが子どもだったころ』を選びました。7人の才人たちとのまことに楽しい会話に、心の底から笑い、ほっこりした気分になれました。ユーモア溢れる本には目がない僕ですが、つくづく面白いと思うのは福澤諭吉の『福翁自伝』です。つい最近読み直したのですが、最高に笑ったのは、細い道を屈強そうなサムライが歩いてきて、すれ違いざま怖くて走り過ぎたと言うのですが、同時に相手も同じように走って逃げたと言う話です。

 その昔、河合氏にユーモア力の磨き方を教えて貰える本を訊きました。挙げていただいた本を読んだのですが、残念ながら全く面白くなかった。そういうと、「そうですか、やっぱり」との答え。これには笑った。今の僕なら『福翁自伝』を挙げるはずです。河合氏ともっと語り合いたかったと思います。

⚫︎維新や戦争めぐる親子、友人との深い溝

 次に安部龍太郎氏の『維新の肖像』。ここでは維新をめぐる朝河正澄と朝河貫一の親子二代の生き様を描いたものですが、今、公明新聞に安部氏は『2人の祖国』と題して、朝河寛一と徳富蘇峰の物語を書いているのは周知の通りです。佳境に入ってきたところですが、どのように決着をつけるのでしょうか、大いに興味が募るところです。実は新聞小説が始まった時に安部さんに書いた手紙には返事を頂いたので、とても嬉しかったものです。しかし、つい先日書いた手紙にはなしのつぶて。さすがに、連日の新聞小説には気が休まる時がないのかもしれず、柳の下に二匹目のどじょうはいなかったようです。

 最後に、玉岡かおるさん。デビューされて間もない頃に友人の建設会社の社長と一緒にご自宅に伺ったのは懐かしい思い出です。お互い駆け出しだったのですが、あれから30年。今や彼女は押しも押されぬ大女流作家。こっちは議員を辞めてもう12年ほど。来し方を比較するべくもないのですが、彼女の本格的小説はあまり読んでいません。ところが先日かつて事務所を手伝ってくれた女性事務員(西宮市在住)と話していると、玉岡さんの『汎神』を激賞したのです。これには驚いた。北前船をめぐる物語で絶対読むべしと勧められました。その昔にはとんと小説談義などしなかったのにと、その成長ぶりにすっかり感じ入ったものです。そのことを玉岡さんに伝えると、当然ながら、大いに喜ばれました。(2025-7-1)

 

 

 

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