⚫︎官僚における師弟関係と先輩・後輩と
次に第6章、官僚編です。上巻では外務省の岡崎久彦さんと宮家邦彦さんを取り上げました。両者ともに僕の筆致は冴えていたと自己満足していますが、さて実際はどうでしょう。宮家さんが今年の産経新聞新年元旦号で、第40回「正論大賞」を受賞されたことを記念してBSフジの報道番組「プライムニュース」のキャスター反町理さんと対談をしていました。この中身に関しては既に一部取り上げた(7月2日付け)のですが、今回は宮家さんと岡崎さんの師弟関係の発端といえるくだりについて触れてみます。
それは、第11回の同大賞を岡崎久彦さんが受賞されていたことに関連して、宮家さんが岡崎さんのことを深く尊敬されている様子が明らかにされます。米国に留学していた宮家さんが当時、戦略国際問題研究所(CSIS)で客員フェローを務めていた岡崎さんから、安全保障をやるのなら歴史の勉強をせよと言われたことが出てきます。当初宮家さんは、その意味がすとんと落ちなかったようですが、外務省を辞めてから初めてわかったことを披瀝しています。「岡崎さんのアドバイス(外交には歴史観が必要)がなければ、今の私はありません。最初の恩師です」とまで。二人の歳の差はほぼ20年。頷ける思いがします。
僕のかつての仕事上のボス・市川雄一さんも岡崎さんを深く尊敬されていました。年齢は5歳違いでしたが、政治家と外務官僚の域を超え畏敬の念を抱かれていたように思えました。僕には『陸奥宗光とその時代』『小村寿太郎とその時代』『幣原喜重郎とその時代』『重光・東郷とその時代』『吉田茂とその時代』や『百年の遺産 日本近代外交史73話』を読めと強制されました。懐かしい思い出です。
もうひとり、官僚編で取り上げた厚労省事務次官の辻哲夫さんに触れてみます。僕が厚労省に一年だけお世話になった頃に、事務方トップが辻さんでした。厚労行政のイロハも知らない僕でしたが、実に大事にしていただきました。忘れえぬ恩義を感じています。その背景には、この人が公明党の大先輩である坂口力元厚労大臣を深く尊敬されていたことがあります。つまり「大先輩の七光り」という余波を僕は受けて、ひたすら大事にして頂いたのです。力もない人間に勿体無いことだと今にして思います。
つい先日のこと、僕が副大臣だったころに秘書官として支えてくれた宮崎淳文総括審議官が次期官房長に昇格することが判明しました。最高に嬉しいニュースだったので、その喜びを分かち合って貰おうと東大特任教授の辻さんに知らせました。すると、「宮崎さんという大変優れた方が着任され、赤松さんと共に私も心から嬉しく存じます。少子化対策を含む社会保障政策が、超高齢人口減少社会における不可欠の地域再分配を含んだ公共事業ともいえます」と述べられていました。僕が厚労省を離れて既に20年。今も当時の関係を大事にしています。それを辻さんは喜んでくれ、こちらもまた嬉しいのです。
⚫︎人の見方さまざま、官僚の生き方もさまざま
元英国(アイルランド)大使だった林景一さんは、帽子の良く似合う英国風紳士です。いつも穏やかで理路整然と政治を、国際政治を、国際法を語ってくれました。僕が下巻に取り上げた『アイルランドを知れば日本がわかる』についても、うまくまとめていただきありがとうございますとの返事を頂きました。その林さんが過去に幾度か色をなして反論されたことがあります。外務省出身の著名な外交評論家のことを僕が肯定的に述べた時です。
彼は記憶力には凄いものがあるけれど、国際情勢分析においておよそ公平さを欠いているといった趣旨のことを述べられ、落ち着いた議論にならなかったのです。外務省の正統派からすると、どこまでもその評論家は異端にみえる存在なんだと、妙に感心してしまったことを覚えています。僕の国会における発言が発端になり、世間での評価も高まった人(という側面なきにしもあらず)だけに、複雑な心境になります。
国交省最高幹部だった大石久和さんからは、「小生の著作もご丁寧にご紹介くださり、感謝に堪えません」とのお礼状を頂きました。その後に「(大石は)国民の貧困化に危機感のないオールドメディアの批判を続け、講演活動、執筆活動も懸命に行っています」と書かれており、B5用紙2枚に渡って、3000字ほどの小論考「亡国の『改革』に専心した日本」(多言数級245)が同封されていたのです。厳しい政権批判の文章でした。
今日ここにまで庶民生活を貧苦の底に追い込んだ「政治の流れ」とでもいうべきものに、大石さんは怒っています。2001年の省庁再編に端を発した「大蔵省解体」の動きと「財政健全化」という方向の定着がもたらした、今に続く自公政権の負の元凶が綴られています。この論調、結構選挙戦の底流に根ざしています。政権の屋台骨を揺るがせているように思われ、深刻に受け止めざるを得ません。(2025-7-6)
※これでこの連載は終わります。